モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

7.メアリの商い



「お……」メアリは目をすがめる。

「またなにかやらかしよったんか? 読めてきたわ。またうちが尻ぬぐいしてやることになるんや」両手で緑の瞳の上にひさしを作ってメアリは午後のガイデンハイムの城門を確かめた。

 それは坂の下の先にある。

(えらいとおく思える……。じっさいとおいか)

 メアリは馬車から降りて積み荷を引っ張り出そうとする。

「よっこいしょ。よしよし」懸念していたものの、子供の力でも酒樽を石畳の地面に下ろすことができた。

「ええと」(とにかく城門まで持ってこい)ゴランの言いつけを思い出しメアリは眉にしわを寄せた。

(転がしてったらかんたんや)と引き受けたのだったが、「どないしたらできるのか言うてけや」と少女はつぶやく。

 下り坂を見渡せば門へ向かう人と馬車、中には牛までいる列、それらから収穫を得ようとする出店の群、店まで縦横に行き来する人の群れ、その全てを取り締まろうと闊歩する衛兵たち。

(無理やん!)メアリの顔は午後の陽射しに当てられたみたいになり、長い赤髪とまとめて首から上を全部朱に染めた。

(樽をだれかにあてようもんなら、うちただちにとっつかまるわ)下町の城門前といえばこの少女の勝手知ったる職場であったが、それは同時にこの小さくさがない盗賊をよく知る天敵のひしめく場ということである。

(馬車でいってももってったことになるな)謎かけに答えるように考えてみたがそれはますます実行不可能だった。

 もはや下ろした一樽を持ち上げるのさえ億劫な気分であった。

 少女の隣を一団が通りがかった。背の高いヒューマンの男たちで、手ぶらのようだったのでメアリはすぐに声をかけた。

「なあ、てつだってくれへんか。向こうまでもってってや」

「お前の馬車じゃないだろ」男たちはすぐに行こうとする。

「せやで。親のもんにきまっとるやろ。つよくて気前がええんやで」保証と信頼を得るためにメアリは心にもないことを並べ立てた。(しゃくやなぁ)

「あっこの店におるんで、」メアリは坂の下を適当に指差す。「うちがとどけにきたんやけど、もうおそすぎたな。行列につかまってしもた」

「なるほど、手伝ってやるよ。きれいなべべ着た嬢ちゃん」「さよか。へへへへへ」メアリは機嫌を良くし、黒い長衣の袖を内からつまんだ。「せやろ? これは……」

「なんだい中身は。酒か?」男たちは樽を軽々肩に上げ、その反動を確かめている。

「言わなあかんことか?」「いや」(よしよし)メアリは男たちを歩かせ始めた。

 と、「おじさんたち! 騙されんなよ!!」「な、なに!?」

 メアリが振り返ると、旧知の者たちであった。「げっ、不良少年団!!」

「こいつが盗んだもんだぜ!」少年たちが全員メアリを指差す。「あほ!! これほんまにうちらが買うたもんや!」メアリは自分の馬車を指す。「なわけあるか!!」少年たちの合唱。

「積み荷は俺たちが返してやるよ」少年たちは樽に飛びつき始めた。「こら! こん、嘘つきども!!」メアリが叫ぶほどに少年たちは楽しげになった。

「やっぱり怪しい餓鬼だと思ってたんだ」「衛兵に確かめてもらおうぜ」

「ちゃ、ちゃうわ。ほんまやて」メアリは大人たちを味方につけようと彼らを振り向く。「はぁぁ!?」

 男たちが樽をかついでめいめいの方向に散っていくのだった。メアリは男たちが手ぶらであった意味が分かった気がした。

 一瞬放心していた隙を狙われて、馬車に第三者までもが取り付いていた。「あほ! あほ! あほども!!」

 そこに衛兵たちまで聞きつけて脚絆を鳴らしてやってくる。

「ええい、もう、うちも逃げる!!」