「あほ!! 風邪かいな」「すまん」メアリの頭にくしゃみをしてしまってゴランが謝る。 「ここは寒いな」「あほ、上着をきとらんからや。ここはむわっとくるくらい暑いで」 「うちのこと利用したったつもりか」下水道の中、馬に揺られながらメアリは感想を述べる。 「ああ。騒ぎを起こすのが得意だよな」ゴランは見上げてくる緑の瞳を見返す。 「まあなぁ。ほんまにいけすかない町やで」 「こっちやで」「おう」ゴランは少女の言うことを聞いて駒を操った。「よく言う。しかし、ブルガンディも似たようなところさ」 「おお! そこへつれてってくれるんやろ!? かねもちの島や!」 「音を立てるなよ。ブルガンディへ帰れたら、いや、船に乗れたら、国境を越えるだけでも目処はつくだろう」 「ほほお……。いがいに期待をもたせるやないか」 「よそが大いくさの最中だからな。うかつに兵を進めるようなことはできん……と期待している」陽光をさえぎる地下道の中、駒はゆく。 「あー……せやった。いくさが一番あぶないやないかい!」 「期待は担いでおけよ。悪党は乱世には動きやすくなるもんだ」 「うむう……。そら、東に出られるで」メアリが向こうに小さく見えた光を指差す。「うむ」 「さて、どないするんや。こっちのほうか?」メアリは太陽にあたりをつけて、北東の方角を割り出そうとしている。 (西……?)彼女はゴランが馬を引き、あらぬ方角を向かせたのに気づいた。 ゴランがそのまま馬に鞭を入れてゆく。「なにやっとんねん!!」 メアリの声が届かぬところへ馬は走り去った。 「馬で城門を破った親子連れ、目立つよな。親は謀反人、しかも子供は普段からの札付きだ」即席の変装のために上着を脱いでいたゴランは、どこの民族のものかわからぬ黒い長衣の、めっぽう赤い長髪の娘を指して言う。 「んな……親子……つっこみどころがおおすぎや……」メアリの口は陸に揚げられた魚のようになった。 「証拠を消していかなきゃならん」謀反人は辺りを見渡す。「まだここらなら商店もあるだろう。二人の着替えを買ってくるから、潜んでいろ。預けた上着を返してくれ」 メアリは憮然として、言葉を出さずに彼女の背負った包みを開ける。口をつぐんだままゴランの白い長衣を手渡すと河川敷の草むらに引っ込む。 「まだここに回状がまわっていないことを祈りたいくらいだぜ。それと民家が少ないってことは、赤い魔女たちにも気をつけないとならん、分かるか?」ゴランは長衣に袖を通して頭巾を深くかぶる。 「騒動が起きてもそこで待ってるんだ。日が落ちたら、待っていても日が暮れるようならもうまったく自由にしてくれ」 「ほんま、あほや。さっさと行こか」「何」 赤い長衣と顔を覆う白い頭巾。ゾール信徒の小さな姿が現れた。 |
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