ガイデンハイムの衛兵たちは、略奪に遭う馬車を確認した。城門への道を塞がれた群衆を暴徒に変える火種になることをおそれ、鎮圧の一隊が向かった。それはむしろ門を堅く閉じるからであった。 しかし行列は後方の騒ぎと、前方の目的が失われていくことをおそれた。 行かせろ、ならんの押し合いへし合いが始まり、城下町の大門が人でうずまっていく。 わーっと逆の方向で叫びが上がった。狼藉の続く馬車からのものだと人々は理解し恐怖した。 そして、火のついたような、いや、赤く長いたてがみを風に乗せて駆けてくる馬があった。 一人の男が素早く踵を返す。 早業、馬との接触をおそれず再び自分のものとして騎乗した。 一帯の事件の主だった。今や騒動の隅に紛れたひとかけらでしかなかったが、馬車の被害を訴え駆け込んできた男だった。 男は馬の赤いたてがみを引きはがすではないか。その下から馬の自然な毛並みが現れる。 「よく失敗してくれた、メアリ」馬の首にすがりついていた少女を自分の前に乗せ換えてやって、ゴランはささやく。 「返事はするなよ。舌を噛み切るからな」子供に御し得なかった馬にさらに拍車をかける。 二人のヒューマンを乗せた馬が向かうのは、群衆を押しのけて槍を並べる城門の兵士たち。 彼らにゴランは言葉を叩きつける。「どくんじゃないぞ!! 死ね!!」自分の前で身をすくませる少女に構わず、男は一段と馬を走らせた。 衛兵たちの間に瞬時に判断しようのない動揺が走るが、さすがに王都の猛者たちであって、下がる兵はいなかった。 しかし周囲の群衆はそうではなくて、判断のままならぬなか白昼の暗殺者の気迫に押されて城門へ雪崩を打つ。 「あ!! あ! 貴様らっ」兵たちの槍の林はみるみる乱れ、ゴランはまさに活路を見たのである。 高揚した精神で手綱を繰れば軍馬は答えて邪魔者を一人も蹄にかけずに突き進む。 「すぐ右や!!」気を失わずにいたメアリが手筈通りに指図を飛ばした。にわか騎手は周囲の様子が見えておらず、少女にひたすら従って、気がつけば二人は暗い地下道にいた。 「まあしばらくは、地上のれんちゅうを捕まえてまわるのにいそがしいやろ」 「馬ごと下水に入る……成功はしたようだ」ゴランは振り返る。流れる汚水を除いて、自分たち以外に音を立てるものはない。 「いちばんめだつことをしたにはちがいないやろ。しばらくすればここへくると言うとるんや」 「なら前へ進むしかないな」二人は地底に馬蹄を響かせる。 |
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