(面倒くさがりめ。なにが功徳だ) 手隙になれば頭に尽きせぬ不平が湧いて出る。 (ゾールの教義が享楽ならば、毎日楽をしてすごした者こそ地底へ召されるのではないか)そうだ。そうに決まっておる。 早朝の鐘はずいぶん前に鳴り終わってしまったのだ。深夜の市内取り締まり、とやらに勇んで出かけて未だ戻らない神官マンモン、神官ダイモン。残されしカルモンは神殿での勤めを果たさなくてはならない。 本日も大勢の敬虔なる信者が功徳を積みにやってくる。(楽しく食事をしに乞食を働きにやってくる!) カルモンは厨房を見回る。湯気の洗礼を受け、水や薪を浪費していないか、食材をしっかりと節約しているか、味つけは最低限に。同じ内容を沢山の部屋に毎日言って回るのだ。 僧侶たちが返すのは丁寧な言葉だが、(お前がやれ)この自分を見るなり彼らの眼つきが変わる。 倦んだカルモンは中座し裏門に出た。(誰がやるか。偉い俺は楽をするぜ)懐から煙管を取り出し、火をつけようとする。 「おい、ちっさいじいさんな、連れがしにそうなんや。《ポーション》わけてえな」 「何……?」カルモンは煙管を吸う体勢のまま声のほうを向く。 風変わりな黒い長衣に赤い髪の女の子。俺とどっちが背が低いかと、カルモンは考えた。かたわらに頭巾を深くかぶった白い長衣の男。 「回復なら正門へ回れ」 「しにそうやゆうたろ。いそぎの用なんや」「お慈悲を……」二人同時に返事をしてくる。 「ふん、急ぎなのにわざわざ裏口へ回ってくるのか。身に気をつけたほうがよいな。ここへは薬を金に換えたがる乞食がよくやってくるのだ」 「このおっさんがしにそうなんはほんまやで。仲ようないからうちの気がはいらんだけや。なんや、じいさんこそけったいな顔色しよってからにぃ」 カルモンは気分をそのまま顔面にあらわして歪めた。「……ゴブリンを知らんのか、田舎者め」 「えぇ!? ……いやぁ、しっとるわ。ゴブリンの神さんはメーラやろ。ゾールはんの使徒をやっとるのはおかしいやん」カルモンの顔はみるみる気色ばむ。 「おいやめろ……。誰がどの神を信じようがそんなことは自由だろう」少女の隣の男が苦しげな声で割入ってくる。 「どうでもいいだと!! この神官カルモンに向かって!!」老ゴブリンは背にくくりつけていた木の杖を左手で素早く取り出し、節くれだったそれを右手の煙管と交換した。 「あちゃあ!!」メアリは慌ててカルモンの前を横切って逃げ出した。赤い後ろ髪が横一文字に浮かんで主人の後を追った。神官は杖を持ったままの手で長い髪を捕まえようとした。 と、いうところで背に鋭い物が突きつけられたのを感じた。 ゴランが囁いてくる。 「金は出す。普通に《ポーション》をよこしてくれたらそれでいいんだ」 |
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