モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

9.赤い髪の女たち



「あんな主人とゴブリンたちだったが、忠義を立てたり逆恨みする奴はいるかもしれねえ。じいさん、気をつけて
帰んな」

「ま……待て待て! 話が早すぎるわい! そんな身体で海の向こうへ行こうってんかい!!」

「当然さ。当然で残念だが、身体が治ってしまったら働きに出ねえといかん。ずる休みする方が身が危ない。
それに、こんな大勢の前で踊っちまったことも気にくわねえから出ていくんだ。……もちろん、照れくさいので言
ってるだけさ」

「嘘をつけ!」老人は、ゴランへ向かっていった。「ん……いいぞ」目の前の若者は耳を貸さず、着込んだ長
衣の袖をもて顔をぬぐっている。転んだ傷だらけのけわしい顔つきがかすかに緩んでいる、と老人は思った。致
命傷を負ったはずの両眼はかすかに開く。

「な、なあ! も少し、落ち着いて確かめてみんか!?」「うっ」老人の両手は思わず彼の襟元をつかまえた。

「びっくりさせやがる」若者は完全に光を取り戻したわけではなさそうだった。曇った視界から手がふたつ急に飛
び出して見えたであろう。

「さっきお主はあり得ない力のおかげで命をながらえた! それは神のくだされ物だと思わんか!?」

「冗談じゃねえぜ」若者は老人を払いのけた。老人は後ろによろめいたが、ゴランも半分暗闇にとらわれてふ
らついた。「そんな浮かれた熱みたいなものが頭の中に漂っているのは気持ち悪くてしかたない。もちろん、俺
のことじゃない。そうだ、船ならいい酔い止めがあるな」さっと踵を返そうとする。おぼつかない足元。

「待て! 待て! 危ないぞ!」「余計な世話さ! 俺が海外へゆくのは運命で決まってるんだよ」

 老人は顔をしかめて首を振る。「偽りの予言はやめい……占い師の道義にもとる。お主にはいろいろ教え
なならんことが……」

 盲人は指を差してきた。

「ブルガンディの鉄火場をたくさん紹介してやろうか? じいさんは正しい予言で賭け事に勝ってみたらどうだ」

「馬鹿を言うな。都合よく降りてくるものではない……。今日、わしが何回肝を冷やしたか想像してみい」「な
るほど。不揃いな歯、趣味の悪いぼろ服の中にやたら目立つ水晶のどくろ。いい暮らしはできていないのがな
によりの証拠だな。見えなくなってもまだ思い浮かぶぜ」

 老人の枯れた頬がかっとなった。「そこまで視えてきたか……い、いやいや、待て待て!」

 ゴランは見えぬ目を見開いて、「な、なんだ、おどかしやがる」

「やはりよせ!! 船には乗るな! 赤い髪の女から逃げても殺されてしまうぞ!!」「なんだと!?」ゴラン
は長衣の中に急いで老人を手繰り寄せた。船客、船員、財布を盗まれた者、モンスターに腰を抜かした者、
人だかりはごうごうとどよもして、たった二人の会話など覆い隠してしまう。

「いや、勘違いするでない。赤い髪の女は二人じゃよ。両方とも見事な長い髪だが、あの鮮血のような輝
き、わしは、見たことがない。母娘に違いない」

「何を言い始めやがる!!」

「背の高い女からお主は逃げ出す。恐怖に凍りついた顔でな。次に背の低い……いやいや、子供と言うた
な、わしは。ノームでもドワーフでもなかった。二人ともヒューマンじゃ。お主は子供のほうにやられておったよ…
…」

「じいさん。さっきから言うことが本当ならどこへ行ったところでその親子が先回りをするんだろう? 運命の先
をさ」ゴランの手が宙をいくどかさまよう。老人はあごを上げた。盲人の手は老人の襟元へたどり着いた。手に
は力がこもっている。

「じじいの妄言を信じるんか!?」「今日は俺にも信じざるを得ない部分はあった。それだけは言っておく」