モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

3.ダガーとスリング



「ど、どうせお前たちは終わりなんだよ。あんなところにいる人間に何ができるもんかよ」

「は! こ、この馬鹿、白状したも同然じゃわ!」悪漢と老人は焚きつけ合った。

「あ。う、う、いかん」《悪漢のロイ》は放言を垂れた大きな口を手で塞ぐ真似をした。かと思うとその腕を振り
回し、「おめえたち、盗んだ物をあいつに預けたな! それでおめえたちは無実のふりをしてるってわけだあ!」
その声の大きいこと。ざわめき。周囲の耳目がロイと老人、そしてゴランへ集中したのが分かる。ゴランは目を
丸くした。

(こいつはまったく、ペルタニウスの言う通りの人間だ)ゴランは苦笑いする気も起きない。(人間、自分の後ろ
めたいことを他人へ押しつけたがるとは言うが)

(まぁ誰が悪だろうが関係ない)ゴランはそこで踵を返した。「はぁーっ!?」残りの二人は愕然。

「見りゃわかるだろう。船はとっくに着いてる。仲良くたっぷり話し合ってろ。俺は仕事に出かける。つまらん暇潰
しになったよ」ゴランの背後ではブルガンディに運ばれてきた死すべき者たちが次から次へと船を降り、久しぶり
の陸の感触を踏みしめている。船員たちは動く仕事場の内部を飛び回って確認し、無数の立つ鳥たちが跡
を濁さぬよう清掃を開始している。

「おい、おれは親父の責任を取れと言ってるだけなんだよ。それだけなんだよ……」ロイが追いすがってきた。
妙に口ごもった、ただならぬ気配にゴランは押された。

「おい、それはやめろ。衛兵を呼ばれるぞ。その前に屈強な船乗りに押さえられるぜ」脇腹に《ダガー》を突き
つけられている。ゴランは声を低めた。ロイはゴランの旅装束の長衣を上手くたぐっており、周囲から見えない
ようにしている。

「こ、こうなれば潔白を証明するしかないっ」老人も早口になっている。状況を理解しているのだろうか。「倒
せ、倒すんじゃ!」老人は遥か山の手を差したのである。

「はははは! 例えエルフがドワーフの《クロスボウ》に金を払ったって無理だぜ、無理!」(まったく、この馬鹿
の言うことはほんとさ)突きつけられた《ダガー》から目を離せぬままゴランは思う。

「いいから《スリング》を出せ! ローブの下に隠しておるじゃろ!」「なんで知ってる!!」ゴランは思わず怒鳴
った。

「ははは! スリング、《スリング》!」ロイは二人を心ゆくまで笑った。(《スリング》じゃこの悪漢の頭をかち割る
くらいしか出来ん)

「とりあえず真犯人を倒す真似だけしてみせて、みんなの同情を買いたいつもりだろうがそうはいくか。みんな
の笑い者になりやがれ」言い放つとロイはゴランを山の手の方へ向かせて一発こづいた。刃の脅威から逃れた
のは幸運と思うべきか?

 ゴランが仕方なく《スリング》を取り出し構える真似をしてみせるとロイはまた笑う。「そら、二人は見知った仲
だ」それで周囲の客も同調し始め、良い見世物よとあたりに笑い声が立ち込め始めた。

「あいつの背中が的だな! 存分にやっちまえよ!! 可哀想な目に遭うこともねえだろうがな、ははは! 
いや、誰だか全然知らねえけどな! ははははは!!」ロイは喜色満面、ゴランは、(まったく忌々しい)群衆
の視線がつぎつぎ彼の全身に突き刺さり、普段からきちっと着込んでいる厚手の長衣もそれを撥ねのけられ
ないでいる。『お前さん、目立たないようにしようとすっから目立つのさ』酒瓶片手のハーンからそう言われたの
を思い出す。

(このスリング一投が不発に終われば俺は笑い者、自動的にこの場の悪役の出来上がり)ゴランにたかり始
めた、明らかな好奇の目。暇潰しを見つけて緩んだ口元。消えた財布の責任をこちらに見いだし怒りに燃え
た顔つきもちらほらあるように思える。

 ゴランは近くを見るのをやめた。坂を登る男――体つきと歩き方で判断するに――は徒手で背負い袋も
持たなかったが、それにしては歩行の速度は遅かった。それも単に見間違いかゴランの願望かもしれなかっ
た。ゴランが動きあぐねている間にも男の背は小さくかすかなものへ縮んでいくのだ。

(ざれごとに付き合うよりもっと素早い解決策があるんだ)

「懸命にやれ! 命がけになればなんでも為せば成る!! 一生懸命じゃぞ! 不真面目な気を起こせ
ば、不幸になる!」「なんだと!?」またロイとゴランの声が合わさった。

 ロイがこちらを向いた。「てめえは俺を海へ放り込もうってんじゃねえだろうな!?」人目もはばからず《ダガ
ー》を振りかざしてくるとゴランには防げない。喉元に突きつけられるのを許した。周囲の悲鳴は遅れて上が
る。

(どっちでもいいから突き落としてやりたいが)ゴランは近くを見た。ロイの顔がゴランの視線を押し返すほどの
憎しみに満ちたものになる。と思うと侮蔑を湛えた笑い顔へ変じる。どちらも悪の顔面だ。老人の顔はひたす
ら怯えるだけだ。

 ゴランが老人の不審な言動を信じ始めていたのは彼と同じ心境に近づいたからであろうか?(単に俺を逃
がしたくないだけで予言ではないのかもしれん)艶のあるスリングと、旅の前に充分磨きあげた弾丸を取り出
す。ロイは傍らで身構えている。