モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

6.再び空から



 酔っているのは自覚している。

 しかし、全部の運命を酒まかせにしてしまうのは無責任であり勿体ないと酒が言う。

(哀れな宙吊りの男を助けてやれば、やつは今までの悪行を悔いて猛る群衆を収めて去ってくれるだろう
か?)自答。(そんなわけがない)ゴブリンと悪漢の酒が今ごろ頭の中へたどり着いた。悪党どもがでかい成
果を得るために、とにかく樽の数を揃えることだけ考えた安物のやつ。

 その悪い水が俺の心を回って膨らませているんだ、この馬鹿げた期待の奔流と、それを外側から眺めて冷
ややかに立っている自分の像が思い浮かぶ。その頭の外を、厚手の頭巾を細かく打つものたちがいる。雨は
強さを増している。(俺の内も外も忙しい)ゴランは今というものを嗤いたくなったが、笑いは出ない。手投げの
《スリング》など風雨には無力なのはよく知っているのだ。そして空には死がはっきりと人の形をしてばさばさと舞
っている。

 ゴランは寒くなる。思考に没頭したところで、現実が消えてなくなったことが一度だってあるか。羽毛をまといく
ねらせる身体、それが危機だ。ハーピィが抱えるものはこれまた毛深い頭。ゴランはぎくりとしたが、(しぶとい)
と思いちんぴらの悲鳴から目をそむけた。もっともロイの命が消えた時が鳥人の攻撃の契機となるであろう。
(そうなってもしばらくは人の壁が時間を稼ぐさ)

「お、おい。みんなやられてしまうぞ」老人は四つん這いのまま、意地の悪い考えをする者へ擦り寄ってきた。
「減ったほうがすっきりするさ。俺たちを疑っていたやつらじゃないか」「そ、そんな、誰もかも一緒にしちゃいか
ん」

 ゴランは頭巾の下で黙って顔をしかめることになった。(薄情な)老人とは別の声だ。確かにかすかにそう聞こ
えた。空の悪漢。彼はもう前後不覚で、空中の刑罰である鉤爪の痛みに耐えることだけを野性の女主人に
許可されていた。宙を振り回されるさなか、見知った者の頭ふたつが視界の片隅にでも入れば、どんなに利
己的な男であっても助けを求めるであろう。

(恥も外聞もないというやつ)こうなるまでは謀殺される立場だった男は地上で毒づいた。ハーピィに不自然な
振る舞いが見られる。遥か離れた地上へ身をよじった気がする。弱った餌がなにごとかつぶやき、懐かしの地
上へ一ヤッチでも近づこうと無駄な努力を試みたからか。

(気づくんじゃないぞ)この阿鼻叫喚の港に詰める者たちは、短時間のうちにハーピィの羽音に大陸の誰より
も詳しくなったが、聞きなれぬ音をさせた。ゴランは蒼白となった。

(俺たちを脅威だと?)モンスターに対抗し得る手段を持つ者が餌の合図に呼応したと?(そんなわけがな
い)

「持っているはずがない!」しかしゴランは立ち上がった。ぐんぐん迫るハーピィに向かって答えた。「うおっ!!」
跳ね上がった隣人にかたわらの老人は目を剥いてひっくり返った。

 一介のヒューマンの薬売りに迫りくる巨大な翼の獣人。

(これは、好機だ!! 酒のせいかどうかは関係ない!)ゴランは《スリング》を堂々構え、ハーピィへと突進す
る。

 雪崩をうって鳥人から逃げ惑っていた群衆は、立ち向かう勇者からも逃げ出し始めた。

「殴られに来い、モンスター!!!」言いながらゴランは疾走する。

 そこへ天からの一撃が下ったのだった。

 暗雲から一筋の電光が下りて、地に落ちたかと思えば周囲は閃光に満たされた。

「何!?」ゴランら、その場すべての生きとし生けるものの眼球に光が入れられた。