モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

10.晩餐



 黒の魔術士は松から落ちたが、モンドールは痛みを感じる前に恐怖した。枝に掲げていた魔法の箒。それが主人を慕い自由落下を行なって頭上からついてきた。

「うわ!」利き腕を反射的に伸ばせば虚弱なモンドールにも奇跡が起きて、箒をその手でしかと受け止めることができた。

「痛え!」しかし研究生活になまった腕は緊急の運動に悲鳴を上げるのだった。


「ドール、動いたらいけないわ」

「大丈夫です! 状態は話した通りです。出血なし、裂傷なし、痛いのは腰と腕だけ……。痛え! 兄貴のせいだ! いえいえ、罵りたいのはウルフだけですよ。姉さんを囮に使って不意打ちするなんて、くだらない作戦を立てやがって」モンドールは言いたいことを思いつけば口にする。立てぬ体で仰向けになって地面からわめいている。姉カグヤは庭園の泥に膝をついて、弟の狂乱をなだめかねている。

 兄のウルフは傍らの松の巨木よろしく、地の弟のそばに堂々そびえていた。しかし弟は様子の違いが見て取れるらしい。

「なんだよ。他人のせいにするな。元はといえば。ひがんだ顔をするな。……等々言わないのか」

 ウルフは顔を振った。厳しい男の顔に似つかわしくない流麗な黒髪が同調して揺れる。詮方なさげであった。

「つまらない悪戯を考えてごめんなさいね、ドール」

「えーっ! 姉さんが」モンドールは言葉がぱたりと浮かばなくなった。

 ウルフは顔を振った。

「姉さん、《バイタル》を使うから。ドールはじっとしていてね」

「いえいえ、駄目です。それはいけない、姉さん。ええ」モンドールはともかく反駁した。

「大丈夫、今日は調子がいいの。駄目な姉さんでも失敗はしないわ」カグヤはちょっぴり微笑んでみせた。

「そんな意味じゃないです……」モンドールも大きな苦痛と困憊の中に表情を和らげてみせた。

 そこへウルフも割って入り、「軽傷だと申しているのですから、回復魔法まで使われることはございますまい。ケルの球根を擦り温湿布に仕立ててやったらどうです」

「香辛料を!? 冗談じゃねえよ」ウルフは地面の弟の側を向いた。一瞬困った顔をしたのがモンドールには見て取れた。

「傷はないと申告していたろう。熱さを過ぎたら楽になるさ。アラッテの夜に冷湿布は良くない」モンドールは唸って返事に代えた。

「じゃあ、グリンの実も摘むわ。夕餉はお鍋にしようかと思っていたの」

「ではモンドールは私が拾います」「こっちの腕は筋を違えてるんだ! よく見ておけ、馬鹿兄貴」兄弟は悶着ののち肩を組んだ。

 カグヤは楽しい夕食を心に浮かべた。