「あら、あのウルフが諦めてしまうの。大陸の名をもらった子が」 「ガンダ・マーブル。彼女こそ言霊に愛されているじゃありませんか。これはタリエシンに問うてみるまでもないでしょう」 ふ、とカグヤは笑って、「オーク十八年の周期を迎えた彼はいよいよ辟易していることでしょうね。ウルフ、自分と似ている人をからかうのはおやめなさいな」 「それは姉上こそ予言の練者を見くびっておいでというもの。しかし、彼のような人の孤独をようやく分かった気がします」 「キルギル地上の予言の塔を思い出すわね」塔やケイブ、予言者は人里離れた場所に陰棲することが多い。このバレル魔法学院においてもひときわ特別な道とされている。 「この私の話をすれば、マーブルに仕えるつもりでおりますから。このウルフ、今日もご覧のとおり頭が固く弱味も多い。まだまだ学ぶ必要があるのです」彼が肩をすくめて笑ってみせたところ、姉カグヤも同じようにした。一瞬の沈黙はたっぷりと重い。 「安心かしら? ウルフ」 「安心。そう取られるようなことは一つも述べておりませぬが」 「そう。私なら安心するから言ったのよ。マーブルは本当に静かな子だけどもなんでも行えるもの。大陸の全ての理を衣のごとくまとい風のように生きている。本当に魔術士なのか、獣か、モンスターか。何にでも溶け入れられるような、そんな雰囲気のある子だった。今でもそうなのかしら」 「あら、ドールが帰ってきたわね」 言われてウルフは振り返る。姉弟は壁の向こうを見ている。 「どこです。心に捉えられません」 カグヤも少し首をかしげている。「非常に小さなものだけれど、確かにドールの魔力よ」 この自分が捉えられないのだから、弟モンドールは遥か彼方にいる、とウルフは思う。 「姉上はやはり素晴らしい」 「昼間から家で暇を持て余しているから。外のことに敏感になるみたいね」 「歩きですか、空中ですか」 「箒を使っているはずよ。……それにしては魔力が小さすぎる……あなたが気づかないなんて」カグヤは眉をひそめている。 「あいつめ。《マジックウォール》を使って魔力を隠しているのです、きっと」 「箒に乗りつつ? 危ないわねえ」 「少しとっちめたく思います」 |
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