「おめでとうをもう言っていいのかしら? ウルフ。これからどうするおつもり? 大事な時ですもの、ぜひ聞かせてちょうだい」 「ええ。ウルフレンド西部の情勢は大陸全土を巻き込むやもしれませぬ。姉上のご意見こそ拝聴いたしたく存じますが」 「わたしから言わないとだめなの」カグヤは胸に手を当ててみせた。「もうわたしはしがない部外者よ」 「熱狂する学院を外から見つめればどう感ずるかです。未熟な弟は知りとうございます」 するとカグヤは居住まいを正して、「そうね。ウルフは謙遜しすぎだけれど、言っていることは正しいと思うわ。姉さんはね、無辜の民を救おうとするのは予想以上に大きなことだと思うの。意義の話ではないわよ。ヒューマン以外の、エルフ、オークにさえ手を差し伸べるのはもちろん。彼らの兵隊にさえ憩いを与えなくてはならなくなると思うの。魔力を暖房や座布団に変えて、この山の中でぬくぬくと独り占めすることがもうできないということよ。そんなことになったら物事の終わりが来るのかどうか、無責任な姉さんには分からないわ」 (わたしたちは天つ七神を精いっぱい見上げるだけでずっと何も分からない。戦争をアラッテの高みから眺め善悪の人を選別し、死を消し去ることは未だにできないのだから)考えてカグヤの魔力はかすかに揺らめく。 「確かに承りました。我らはしょせん理に逆らう者でしかないことを日々思い知っております。しかし事態は予断を許さないのです。私は責任を時の流れに押し付けようとしているのかも知れませぬが」 「ヒューマンとオークがなぜだか手を組んでエサランバルへ迫ろうとする。歴史の気まぐれであることを願うべきかしら」 「オークは使者を遣ったのちダグデルを既に発っております。南に陣取るヒューマンと相まみえてから両軍は果たして上手くゆくのか?」 「仲良くしてほしいわね」 「この段階においてはそう望む他ありません」 「あんな風には言ったけれど」「ウルフやドールそれに学院の皆が、オークやいたずらなエルフにいじめられているのを見たらわたしも重い錫杖を振り回してしまうでしょうね。病気をすると無責任になっていけないわ」 ウルフは笑みを取り戻して、「それはしなくていいことです。いえ、私たちが大人になったからと言うのではなく、もうすぐそんな労も消えるからです」 確かに、とカグヤも笑う。彼女の心は久しぶりに学院の思い出に飛んでいる。 「皆は元気かしら。わたしの言葉を伝えるのなら水を差してごめんなさいと付け加えておいてね」 |
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