黒の魔術士モンドールは飛行しつつ自らの魔力を遮蔽することなどたやすく、《マジックウォール》、その魔力の隔壁を自ら透かして向こう側を見ることもたやすい。 そろそろ自らの住まいも近づいた頃である。灰色をした彼の癖毛。長い髪をもてあそんでいたアラッテの山風が弱まったように見えるが、騎乗していた空飛ぶ箒の勢いを彼自身が緩めたのである。 目は夜間に役立たなくても、魔術を操る彼の心は自分の邸宅をしかと捉えている。 (ふん、良く見えるよ、奴)今回は玄関に堂々陣取っているらしい。モンドールは今日も喜びを込めて彼を心の内に叩く。 魔法の箒を操って、悠々傾けた。ゆっくりと大きく、空中に弧をえがく形である。 あたかも魔術士たちの家を過ぎるかに見えたが、途中、また心に留まったことがある。 (玄関から出て、庭へ?)先方の魔力が少々動きを見せてはいたが、これである。 庭へ進むのはモンドールの迂回方向の逆である。此方の魔力が察知されているのを考えてしたというのに。《マジックウォール》越しであっても微弱な魔力は分かるはずなのだ。箒は既にかなりの距離を進んでいるのだから。 彼との駆け引きの計画を改める必要が生じた。まず直感的に庭を罠であると断じてみた。 魔術士どうしの戦いに常識は通じない。相手を非常に優秀に考えて丁度よくなる。それが不本意であっても。 (しかし、庭にどれほどの物があるっていうんだ)モンドールは自答した。策士が策に溺れることもあってはならない。箒は進み続ける。家には近づきたくなくなっていたが、進行を止めればそれこそ感づかれる。 畑がある。日々の糧だけではなく、魔術の材料・触媒を生むために魔術士たちは好んで栽培をするものだ。 しかし、エウレカやヴァンパイア・ブッシュ等の危険な植物はあの家にはない。毎日しっかりと世話をできるかどうか分からなかったからだ。 思いを馳せれば黒の魔術士の心も少し重くなる。自分と、兄ウルフは昼間は学院へ。 「そのくらいはお手伝いしたいわ」彼女はそう言っていた。 (まさか、いるのは姉さんか)モンドールは箒の舵を切り直した。 |
|