モンドールは松の木に身を隠し陣取った。幹はたっぷりとした良いうねりを見せ、葉は堂々と伸びているからだ。(なんだかんだで姉さん、おっそろしいくらいに手入れをしている) その本人の背を良く見られる場所でもある。振袖に袴、整った結髪。庭に咲かせた彼女の作品たちを収穫していると見えた。そのきれいな所作は労を感じさせない。 それでもモンドールの心は複雑で、あまり晴れない。なんだって夜にやるんだ、と思う。 (あれは《イリュージョン》じゃないのか)彼女の魔力は滾々と感じるのだ。しかし、それだけ強い幻覚が現われている証左であるかもしれない。姉の姿という視覚がモンドールを迷わす。(俺も修行が足りない) 「考えすぎているようだな」 「わっ!」 後ろから、肩越しに突き出された顔にモンドールは魂消た。足元の松の幹も揺れる。 「姉と兄の魔力の差も分からないのか? 後ろからつつかれても分からない。魔力にとらわれすぎだな、モンドール」 白の魔術士の言葉は正反対の解釈を含んでいた。モンドールは憮然とする。 「ね、姉さんがこれほど充実した魔力を備えたのは久しぶりだからさ……」 すぐモンドールが反駁すると、意外にウルフは唸った。 「おかえりなさい、ドール」松の下からカグヤの見上げているであろう声がする。 「いま降ろしますよ、姉上」大きく返事をしたのはウルフで、「おまえ、木登りができるようになっていたんだな」と弟へ手を差し伸べる。 「箒で降りてきただけだ。いつまでも登れるものかよ」黒の魔術士は吐き捨てた。 「なんだその言い方は……おい!」最後は弟へ警戒を促したものである。身の注意より悪態にかまけた弟は案の定、樹から落下した。 「いてっ!」 モンドールは背を痛打した。姉カグヤは思わず顔を両手で覆った。ウルフの伸ばした腕は虚しい。 (つづく) |
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