姉の魂がほんの少し分かれるのをウルフは見ている。視線は煙管の先から離れていない。闇のさなかに浮かぶ小さな赤点。それを見つめているうちに柔らかな光が後ろからやってくる。 会釈しようと柔らかく淡い光へ向き直れば、姉カグヤはゆったりした笑顔をたたえて先に頷いている。 「これはどうも、姉上」観察してみれば放たれた魔力は既に消えている。なので彼女の周囲に淡く浮かんだウィル・ウィスプらは当然実体である。 カグヤは召喚したしもべに囁く。ウィル・ウィスプたちは玄関の吊り灯篭へ自分で収まっていった。 「明るくなりましたね」 カグヤは優しい笑顔を浮かべて、「暗闇のウルフ、なんて珍しいわね。風邪を引くわよ。こんな所で何をしていらしたのかしら」それは二人に気付かれたくなかったからだ。 「それともわたしは邪魔かしら。ウルフは無駄なことはしないものね。几帳面なところはあるけれど」 「柔軟な発想を心がけなくてはならないのですがね」 カグヤは袖で口元を隠した。弟の気負いはいつものように面白く感じるらしい。「ええ。変わったことをしなくては魔術と呼べないかもね」 「明るいままでよろしい?」カグヤは玄関から連なる廊下に正座する。 「おやめください。風邪をひかれます」 「あら。いつもは魔法を使うだけですっ飛んで来るじゃない。今日は機嫌のいいウルフと思って安心していたのに」 「違います」 「じゃあ研ぎ澄まされたウルフかしら。姉さんの体調をよく分かっていたのね」実のところは、このアラッテ山とその麓をくまなく走査していたからそうなったのである。 |
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