目的もなくとにかく騒ぎ立てていたいのが酔っ払いなのだと、シャットは下町の中で考えることが多い。 「手伝うな寝てろって言ったじゃないかよ」目前の少女は会ったばかりだが、目の覚めた酔っ払いのように思え てきた。 「そ……そいつをオレが片方押さえてやるよ。いや、一緒にやろうよ」少年は操船のすべを知るよしもなかった が、目前のノーラが自らの舟の帆と戦いを繰り広げているのは分かる。 シャットは立ったが、きしんだ底板の厚みを考えさせられた。努力して強風の中を歩こうとする。 「やめな!! 落っこっちゃったら拾いに戻らにゃいけないだろ! あたいは急いでんだから!」 「そういや、どこへ行こうってんだ。聞いてな」言いかけたシャットの身体を、舟底の下にさざめく波が突き上げ た。 「と!」シャットは猫みたいな四つん這いになって難を逃れた。 「とんちみたいなことを言ったくせに。何もせずに何かしろって。芸でもすりゃいいのか」 「それだ!!」前方から怒鳴り声が返ってきたのでシャットは首を上げた。 「えー? 姉ちゃんに向かってナイフ芸でもしてやりゃいいのかい」自縄自縛なノーラはちょうど良い的に見え る。「オレ今は丸腰だけど」 「そんなことしたら殴るぞ!! 応援でいいんだ、応援しな! あたいを!! こういうときゃ根性と気合いが 大事、誰かがいたらやる気が出る、他のやつがいるからなにくそって頑張れんだ。今、お前はあたいの部下 だ!!」 「怒鳴らなくたって分かったよ。そんなことでいいならやってやるよ」シャットは両手で舟底を軽く叩いてひらりと 跳び船上で胡座になる。「頑張れ頑張れ!」 「よし! 素直で話が早いじゃないか、さすがシーフ!」ノーラもみるみる張り切って片舷の縄に取り組みはじ めた。「こんにゃろう!」少女は縄の張りを適度にゆるめ、金具で固定したいようで、自らの腕力を罵ってい る。 強い潮風と波しぶきに耐え、海神メーラと一人で綱引きをしているノーラの背中に、シャット少年は声援を 送る。 「頑張れ頑張れ! 姐御!!」金の髪が揺れノーラが振り向く。 「おいっ!! にゃんだよそれ!」「姐御ー! 頑張れー!」 「あたいは海賊か!! やめろ〜〜!」ノーラは力が入らなくなったか背中をくねらせる。尾は左右にぶんぶ ん振れ憤った。 「なに言ってんだよ、姐御は敬称だぞ。姐御! 姐御!」「やめろ〜〜」 「うにゃあああ〜〜!! よし!!」ノーラは片方の縄をやっつけた。「やったあ!! いいぞ、姐御!」 「も〜〜ばっきゃろ〜〜!!」ノーラは応援にもだえながら船を制御していった。 シャットが飽きるほどノーラを敬うと、小舟の走行は安定し、船長は帆柱から離れてこちらへ歩いてきた。 少年はよける間もなく頭に拳骨を振り下ろされた。 「ず〜っとこうしてやろうと思って頑張ったぞ!」 |
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