「メナンドーサ、一人でお買い物かい!」 「ひー、ふー、みー……。へへへ、強そうだね、お兄ちゃんたち」メナンドーサは屋敷の前にたむろするヒューマンの門番たちを見つけた。(ゴブリンのあいつは見かけなくなった) 「相変わらず嫌な子供だな。イフィーヌを見舞ってやるつもりだったのによ」門番の一人が言う。 「余計なお世話だよ、あんがとさん。どう、どう」金髪の少女は引いていた手綱を取り、荷の重みに倦んで立ち上がろうとする小馬をなだめる。 「なんだよその態度は。医者をよこしてやろうと再三仰せだったぞ。そんなに買い込む必要だってなくなるぜ」別の一人が言った。 「やめてよ。だから断ったでしょーが」メナンドーサは自分の馬のたてがみを撫ぜてやった。 馬の背に積まれた荷。包帯、布巾、美味しいもの。(買い込むより損をさせられるのはごめんだ) 「最近、どれも妙に高いんだけど、本当にこんなもんなのかな!」小さな冒険者は、その生まれつきの強そうな目つきで眼前の大人たちをねめつける。「な、なんだよ」 「俺知ってるぞ。都の向こうでいくさが始まったから影響されてんのさ。疑り深いとエルフかオークになっちまうかもな。へへ……」「なるほどなぁ。それに、ご近所とちゃんと仲良くしないと生きにくくなるかもしれないぜ、メナンドーサ」 「へぇ、そうなんだ。ちぇっ」メナンドーサは幼い口元を歪め、「お姉のことはいいからさ、あんたたちの方だよ。異常ない? モンスターうろうろしてない?」 「ふん、俺たちはちゃんと仕事をやってるぞ」「ああ、指図をしたくてわざわざ寄ってきたわけか」「知らないぞ、おれたちに無駄口叩かせてるうちにドローネがかじられたって」 「うるっさいな」メナンドーサは跳ねるように大声を出した。彼女の小馬は傍らで草をはむ。 「違うでしょ。あんたたちが泣きついてきたからお姉が無理をして、いま寝込んでるんだ。ヤマネコを狩りに行ったのに『犬が、犬が来る、お逃げ』って、わけわかんないよ」 「イフィーヌも普段の口の割に大したことないな」 「まだちっちゃいんだからいいでしょ! 首はしっかり運び込んで、家に帰ってから熱を出したんだ。ふらふらしてると思ってたらさ」少女は息巻いて話し続ける。 「これからは、一人が休んでもう一人が働くことにした。あたしが決めたんだ。二人いるってのは便利だね。あんたたちもちゃんと働いて」メナンドーサは黒い肌の腕を組む。 「さっきからうるさいぞ」少女の言葉は門番たちも気色ばませた。「いい加減、光の子みたいに良い子にしてろ!」 「うるさい! 生意気いうな!!」メナンドーサは大人たちを驚かせた。 「んん?」しかし唐突に、冒険家の次女はそっぽを向いた。屋敷に近づく不穏な気配を察したから。馬も首を上げている。 「お、おい」男たちも非常に急いだ騎馬を認めた。メナンドーサに向ける視線は先程と違う種類のものに変わっている。 「ったくこんな時に! ……みんなを集めてよ。あたしが指図してやる」「な、なんだって」 「ゆっくり集めてていいからさ! あたしは荷物を置いてこないと。いや、ここ置けるところある!?」メナンドーサはたづなを強く引き馬に言うことを聞かせようとする。 |
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