モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

5.二番手



 少女の手から放たれた凶器は、一瞬でモンスターの首筋に現れるかのように到達した。

「やったあ!!」メナンドーサが背後で喜びの声を上げれば、《クロスボウ》のボルトを受けた魔物は状況を理解する。

「メナ!! 逃げるんだよ!!」巨大ハエは自らの深手ともう一方のヒューマンに構わず首を回し、メナンドーサへ猛然と襲い来る。

「わかってる!!」メナンドーサは踵を返し一目散に駆けようとする、するが、姉が草木の尽きた石灰の上に崩れ落ちているので金の髪の下は蒼白になった。

「こっちだよ! こっち!!」計画を変えず彼女は走り出す。

 モンスターはすぐにけたたましい羽音を立てた。姉の安否、自分の速力、モンスターの速力、鎧の重さ、《クロスボウ》、《キリジ》。少女の心は様々な事柄に支配されていく。

(!!!)走る横に何かがあった。それは蝿の携える得物の穂先で、反射的にメナンドーサは向き直ってしまった。

 メナンドーサは決めざるを得なくて肚を決めた。まだ手にしていた《クロスボウ》を思い切りよく投げ捨てる。極大の虫を困惑させられただろうか? 木組みの転がる音が乾いた石の上を叩いて少女から離れていく。

 それからメナンドーサは腰の《キリジ》を抜きはなち、両手でぎゅっと握りしめ正面に構えた。

 自分が姉より度胸が劣るとは決して思わなかったが、彼女の場合には時間がなかったのである。

 目の前の敵には槍を悠然と構えて少女に追いつく時間がある。

 お姉のように素手で敵のふところに入り込む選択の余地はないし、(この、木も無いところで翅の無い子が勝てるわけがないでしょ)考えること自体が無益で有害な思いが脳裏に広がって剥がれなくなっていく。

 そして、姉イフィーヌが戦っているときにメナンドーサが予想した通りになった。彼女と巨大ハエは何合か刀と槍を打ち合わせた。すると巨大な羽虫は当然のように浮かび上がった。

 少女の心は大いに失望した。(槍術自体は大したことなかったのに!)貧弱な槍を携えた不格好な魔物が宙で勝ち誇っているように見える。

(空中から突かれたら、おしまい……)「こ、こっちだ、こっちだよ……」メナンドーサからかすれた声が出た。

 この敵から距離を取ることは危険だけど、倒れ伏した姉から完全に引き離してやるべきなんだ、とそれだけしか頭になくなっていた。

 飛ぶものと、走るもの。ひたすら恐怖にかられて走るものが異変を感じ取った。

(羽音がしなくなってる)メナンドーサに悪い想像が生まれてすぐさま振り返った。

 と、意外や、無事に立っている姉の姿がそこにあった。

「メナ、動くんじゃない!! ああ、こっちを向いていないで!!」

「は、は……なに?」健在な姉から叱咤を受けて妹は複雑な笑みを浮かべるも、すぐに自分が足場をなくしたことに気づいて落下していった。