「沁みるかい」「ちくちくするよ、やっぱり」「また拭いてやろうか?」「やだ!!」 イフィーヌはメナンドーサを笑って、「そのおかげで助かったんだから、フォルンに感謝しな。崖から落ちたと思ったあんたがすぐまた差し上げられてきたんだ。私はただただびっくりさ」 「ただ植わってただけじゃん。木人が人に情けを起こすくらいなら上がってきて戦ってくれりゃ良かったのに。おかげで大怪我だよ」 「フォルンがダークメタルの冒険者ほど素早く動けるはずないだろ。でっかい金髪の虫が降ってきたのでのけてくれたってだけさ。しばらく養生しなよ、怪我人はさ」 メナンドーサは布団の下でうごめく。「休むにも休めないなんて、洒落にならないよ、これ」妹は姉に肌触りの違和感を訴え続けていた。 「ならまた風呂にしようか。腹は空いてないんだろ?」「そりゃひたすら寝てるだけだからね。寝てろ寝てろとうるさいんだから。でも風呂桶に行くのも面倒くさい」 「じゃあ私だけ沸かして入るか。首の取れた蝿の臭いがまだ染みついてるんだ。メナンドーサは努力して眠ってな」イフィーヌは妹の寝床のそばから立ち上がる。 「くさくないよ! あたしが一番風呂だよ。あたしが一番手柄なんだから」メナンドーサは寝床から上体をゆっくりと起こした。イフィーヌの鋭い目つきはやや丸くなった。 「一人で入れんのかい。溺れんな」 「ドローネじゃあるまいし。一人でもどうってことないよ。傷だって、浸かってるうちに治ってくと思ったら楽しいもんだ。早く沸かして」 「まあね……。初めての相手をよくやっつけたもんだ」 「やっぱり剣術はあたしの方が上ってことよ。いてて」メナンドーサは微笑んで、顔の細かい傷にうめいた。 「嘘をつきな。やつを私が叩いた感じ、《キリジ》でなんとかなる敵じゃなかった。私はみっともなく転んじまったけど、《クロスボウ》の鋭い音はちゃんと耳に入ったよ」言い終わってイフィーヌはにっこり笑った。 「いや〜〜言い間違えたかな〜〜。弓術の間違いね」 「そうだね。当たりどころの悪かった敵さんが、よせばいいのに無理をしたから大事なもんを落っことしちまったってとこだ」紫の髪の姉はますますにこにこ笑った。 「あ〜〜早くお風呂でゆっくりしたいな〜〜」メナンドーサはかたわらの手拭きを取ってしきりに汗をぬぐい始めた。「でもいいのかな」 「なんだい」薪を燃やそうと妹の部屋を出て行きかけたイフィーヌが足を止める。 「大事な時に使えーって言われてたのに、大盤振る舞いにもほどがあるでしょ。お姉が使い出すなんてさ」 「今が大事な時だろう。可愛い妹がさ」「うへえ」 「でも、医者を呼ばない代わりにポーション風呂ってことさ。私らの名声は上がった。見たこともないモンスターを倒してきたってんでね。そして庄屋側がやっかんでる。巨大ハエの首を運び込む時に分かった」 「うん、あたしはぜいたくだと思ってるよ。でかぶつを仕留めた分、報酬は高くつくからね。それをいかにも医者を使って帳消しにしてきそうだ」 イフィーヌはにやと笑って、「いい子だね、メナンドーサ。さあ、ちゃっちゃと沸かそうかな。あんたが入ってる間、肉とパンと野菜を大皿に盛っといてやるから、好きな時に食いな。虫除けになるように香辛料もたっぷり出してやるよ」 「はあん……? また出かけんの? どうして?」メナンドーサが自室の窓を確かめると、夜がようやく明けるところだった。 「医者を断っただけで私らが得できるわけじゃないからね。先方も考えてらっしゃるわけだ。今度の敵は朝方やっつけるのが丁度いい。留守番しといて」 「ええー!!」 |
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