モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

1.戦士二人



「見つけた!! おとなしく斬られな!」追いすがる少女。

 毒蛇は威嚇音も立てずに太い胴をくねせて全身で走り去ってゆく。

 敵の胴は飽きもせずうごめく。少女はひたすらそれに集中していた。周囲の密林も目に入らないかのような錯覚のもと、走る。

 人のような感情を見せずただ逃げてゆくモンスターの背に苛立ちを覚えてくる。健脚を自負しているが、まだ未熟な身体に限界があることも心得ている。(鎧はいまのとこ重たく感じない)

 しかし心得は雑念に変わっていた。少女の心を軽い衝撃が叩いた。

 大蛇コブラは向きを変えていた。敵がこちらを向いた瞬間を目にしていたか、少女は覚えていない。相対することになったモンスターは胴よりも幅広い、特有の頭部でこちらを見た。

 イフィーヌは、疾走するためにこごめ持っていたキリジを高く掲げる。「はぁーっ!!」上段に刀を構え、紫の豊かな髪をもつ少女は気迫をぶつけて毒蛇に先手した。

 刀を存分に使える空間に敵が止まったのは幸運だと思った。しかし、(違う、これは敵が選んだことだ)あらためて視界を目に入れれば木もまばらな場所だった。(こんなところで真正面からぶつかれば、でかい方が勝つに決まっている……)熱のこもった密林で急に止まれば少女の黒い肌は汗をかく。

 イフィーヌとコブラは次の一手のためにしばし対峙した。

「はっはっ!! 勝てると思ってんの!」一瞬できたしじまを破られて、蛇が明らかに動揺したことはイフィーヌにも見て取れた。

 コブラが思わず背面を振り返った。ぶんっ、と何か蔓のはじけるような音がした。

「!!」イフィーヌの構えていた場所にコブラの背が飛来する。

「うわああ!! ごめん!! ねえ、ちょっと、大丈夫!? お姉!!」離れた茂みからこれまた鎧った少女が飛び出して、仕留めたコブラに駆け寄った。《クロスボウ》片手に地面にのびている敵の周辺を確かめていく。緑の葉や羊歯が舞い散る。

「馬鹿だね」イフィーヌは妹メナンドーサに声をかけた。「な、なんだ。人が悪いんだから」樹々の間から無事な姿を現した姉に、金の長い髪の少女は黒い肌から笑みをこぼす。

「やるじゃないか。ちゃんと馬から降りて真後ろを取ったなんて。疲れたろ」イフィーヌは妹のそばに寄り身体をはたき林のごみを落としてやった。

「へへへ……当然だよ。しかし、コブラを一撃で倒せたのはびっくりした。やっぱりすごいなぁ、あたしは」

 イフィーヌは自分の刀をくるりと回し地面の敵に突き立てた。「もう死んでたよ」「油断はだめだ。お前が殺せたのだって、そいつのおかげだよ」イフィーヌは妹の持つ強弩を指差す。

 メナンドーサは《クロスボウ》を両手で持って眺めた。「さすがガルテー製だよ」「下手にいじり回すんじゃないよ」「大丈夫。装填してないもん。安全装置だってあるんだから」

「そうじゃなくってさ」イフィーヌは紫の髪をかいた。「傷つけたがけでもふっかけられるんだよ。ドワーフの品なんて、うちじゃ借金したって買えないんだ。ただでさえ利息がちょっとずつ嵩んでんのに」

「地元のよしみでまけてやるって、奴ら言ってたでしょ」

「信用してるのかい」

「気にしたってしょうがないってこと。契約しちゃったんだからさ。せめて楽しくやろうよ、お仕事は」

「やれやれ。あんた、小馬はどこに置いたの」

「後戻りしよう。あたしらみたいに合流してる頃でしょ。おんまの背でゆっくりして楽しく帰ろ」

「やれやれ、借り物の背でゆっくりか」

「馬くらいは買えると思うんだけど」「損だよ。私らの背がすぐ伸びちゃう」「いつ伸びるんだか」

 姉妹は獲物を二人で持ち上げた。