モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

7.子守唄



「ヤマネコさ」「ヤマネコ。なんだ、安心しちゃった」冒険者の小さな姉妹は語らう。

「油断じゃなくて心配をしな」「お姉の心配を!? ……いやあ、お姉は強くてしっかりしてるのになぁって驚いたんだよ」メナンドーサは笑い、強い姉に冷や汗をかいた。「どういう事情なのか聞かせてよ。ヤマネコがごとき、屋敷の使用人たちで充分じゃない?」

「事情といったって、昨日とだいたい同じさ。家畜の鳴き声がするからって駆けつけても飛びすさって逃げてしまうんだと」

「ふーん。敵の出てくる法則みたいなのが分かりそうだ。こういう感じになってくるとわくわくするなぁ」メナンドーサは布団をたぐって寝台の上に座りはじめた。

 イフィーヌは妹の傷ついた黒い肌の様子を見ながら自身の黒い腕を組む。「メナンドーサとモンスターをやっつけて回ることは楽しいけど、やっつけすぎてるのかもね。敵をどんどん呼び込んでる感じだ」

「うぅーん。で、どうするつもりなの、高名な冒険者のイフィーヌさんは」

「ああ。風下から近寄って弓を射掛ける」

「ふんふん。普通の作戦だね。でもおかしいでしょ。どうしてねぐらが分かるのさ」メナンドーサは朝を迎えた部屋の外を眺めた。「今から出かけるっていうのは夜に仕事をする奴の寝込みを襲うわけでしょ」

「すぐ近くに陣取っているからさ。屋敷からちょっと行ったところに森があったろ? あの木立の上でヒューマン様を翻弄しているってわけ。言ったろ、奴も私らが呼び込んだ流れ者さ。安定した飯場から離れたくなくなってるんだ」

「なるほどねぇ。……森なんてあったっけ?」「普段から気を配っておきな。こういう時困るんだから」

「奴の図体はでかいから使用人らは怯えてる。でも私はでかい的だと思ってる。ヤマネコが屋敷に全ての神経を注いでるのもこっちの好機さ。……装備はどこだったかな」イフィーヌは喋りつづけ、大弓と草色の外套のありかを記憶の底から引き上げようとしている。

「……あたしは心配になってきたなぁ。やめたら? ううん、使用人を率いて奴に一斉に射掛けたら追っ払えるでしょ。大事な妹の看病があるから、仕事はほどほどにしたいですーって言っていいよ」

「ずいぶん具合が悪いんだね、弱気なメナンドーサ」イフィーヌは笑い、妹を困らせる。

「でも奴はにがさないよ。でかい図体は見つけ出して仕留めてやる。二人の大事な妹のためにね」

「あ……。うーん、ヤマネコはきれいな壁なんて跳び越えちゃうか」

「ドローネも使用人のように怯えてると思うとたまんないね」「そんなこと分かんないでしょ、奴は、いや、赤ちゃんは」

「ううん」メナンドーサは布団をかぶった。

「メナ!」イフィーヌは寝台に駆け寄る。「傷が開いたかい?」

「いや、疲れちゃった。お風呂に早く入りたいよ」メナンドーサの金髪と、鋭いが今は閉じられた目が布団の隅から見える。

「まずここで一発ぶっかけてやるよ。さっき入ってから薪がもったくなくて消しちまったんだ」

「冗談よしてよ。やっぱり、さっとお湯に流すのが一番だよ」メナンドーサは姉に顔を向けずに手をひらひら振った。


 イフィーヌが戻ってきた。「あれ」「いま沸かしてるから安心おし」

「安心できないっての。火事になるよ」「そんな失態するもんか。妹の身優先だよ」

「だからこっちが心配だってのに」「いいからしっかり眠ってな。そうだお話を聞かせてやろうね」

「げげっ」「光の子と七つの秘宝のサガだ」「げげげ」

「勘弁してほしいなぁ。光の子みたいに良い子にしてろ、ってお姉まで言うのは」

「だから大人しく寝てろっていうんだ。今は昔、聖騎士マルト、聖母ソフィア、子を授かりけり。子の像には諸説ありて……」