モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

8.あとから来たもの



「はいやっ。どうどう」馬に制動をかけ、地面に降り立つ。馬の腰を軽く叩けば小馬を言うことを聞いて、速歩でそこらへ散歩に行った。

 自分の紫の髪を梳いてみれば朝の陽と馬の背で風切ったことでからりと仕上がっており、巻き毛の少女は満足を得た。ポーションは沁み渡り肌と体内に充満する心持ち。

(ここまでは予定通り)イフィーヌはすぐに葉をかぶり背負った大弓を取り出す。ふんだんに木の葉を使って隠された外套。ずいぶん良いものがあったと家中を探した少女は喜んだ。彼女にはぶかぶかだったので、髪留めで折り目をつけ視界の邪魔にだけはならないようにした。

(馬でここまで迫ったことが吉凶どう出る)夜歩く生き物が休息に入っているうちに片付けたかったからだが、迫り来る騎馬は気取られたかもしれない。

 イフィーヌが普段手にせぬ軸の太い弓の存在感が堪える。(借金がかさんでいるなら、無理をするだけ)負けじと大弓を握り返すが、ついドワーフの《クロスボウ》との比較を考える。

 妹が二人もいると手がかかるから、と笑うことにした。

 笑みはやめて、目標の探索を始めると、それはあまりに早く見つかったのだった。

 冒険者の少女は胸を叩かれた気分だった。(死んでるのか!?)

 初めに疑ったのは落下死だった。しかし周囲に多量の泥の穴はできていない。少女の獲物だったはずの者は目をむき、硬直した四肢を投げ出しており、相応の時間が経っているらしいとイフィーヌは思った。

(となると)次に闘死の可能性を考えた。ヤマネコの身体はたしかに傷だらけで、森の地面をよく見れば、積もった葉の隙は最後の闘争の足跡で満ちているようだった。泥の上になにか一層足されているように見えるのは血糊だろう。

 イフィーヌは慣れぬ大弓を自分の背に素早く戻した。(なら、先にこいつをやっつけたのは誰で、どこなんだ)足跡は大小さまざまに見える。

 死すべき者たち、人間の仕業だと思った。分からないことだらけだが、モンスター同士のいさかいの結果なら、貴重な肉を人間の土地に丸ごと置き去りにしない、と考えた。

 イフィーヌは短く息をつく。メナンドーサと二人でいたって小さな身は交渉に分が悪い。

(あとから来て、首だけ欲しいなんて、つつかれるだろうね)たぶん、事情を知らない流れ者の仕業なんだ。四肢と自分の命を放り出して無造作にこと切れている獣を見下ろしながら小さな冒険者は思う。余裕をもって戻ってくるであろう強者に、イフィーヌの持ち歩いている路銀は心もとない。

 モンスターよりも冒険者同士の対話に心を砕き始めると、不意に金髪と紫髪の大人の顔が浮かぶ。「やれやれ」イフィーヌは、もはや懐かしさを感じはじめた自分の心にかぶりを振る。

「!?」そこへ非常な、素早い力がイフィーヌの背を襲った。少女は森の泥へ叩き込まれる。反動で背中に揺れたものは自分の大きな弓だと強引に認識させられた。

 背後の力に幾度も踏みつけられたが、それは敵が大弓を攻めあぐねているということらしく、イフィーヌももがいて迅速に飛び出ることに成功した。

「何者だよ、お前たち!!」イフィーヌは刀を抜き放った。


 メナンドーサは目を覚ました。何度も昼の陽に眠りを妨げられている。

(まだ帰ってないんだ。今、いくつくらいだろ?)日時計を見に行く気力はなくて、そもそも無駄と思った。

 身体を横たえたまま眼だけで見渡す。あらためて、誰もいない家だった。

(お姉、生きてるかなぁ。……やれやれ)メナンドーサはかぶりを振った。

(自分が弱ってるとなんでも心配になってくるもんだね)