「なるほど、綺麗だものな。惜しくなってとんずらか」紅白の鮮やかな装束の子が指し示したのは崖下であった。喧騒のさなか、奉仕の徒を集めるゾール神官ら。彼らは崖上にいる。 「あほう! こう、変なおっさんが変な目で見とるからな。あっちで着替えよか」 「そうだね。悪いお兄ちゃんだ」アンジェリカはメアリについていった。「もう帰ってこなくていいぞ」 ゴランが思ったより早く二人は戻ってきた。アンジェリカは元の戦士装束に、メアリも元の姿にかえって長く量の多い赤髪を日光の下にきらめかせ歩いてくる。 しかしゴランの目に止まったのは少女が下から捧げ持った布包みである。 「ねえ、この子すごいよ。色んなものを隠してて、こんなに綺麗な服も着ててさ」 「しーっ! 変なおっさんにおしえたらうちが危ないやないか」 「元々俺の部屋にあったものじゃないか!」 「ああ! 確かにお宿の品っぽかった。おいたをしてかき集めたもんかと思っちゃった。お兄ちゃんも優しいとこあるじゃない」「めぐんでくれたらもう、うちのもんやからな」 ゴランは指差す。「そいつもゾールの下され物にしてしまうんだろ?」 「あほう、べべはきれえに畳んで包んでかえすもんや」 「子供に文句ばっかりつけちゃってさ。この風呂敷だってあんたがあげたんでしょうが」アンジェリカが割入った。 「ああ、これはうちがここで見つけたんや」 「汚いな。ごみで包むやつがあるか」 「きれえなごみや。うち、ここに住みたいわあ。へへ、しばらくは儲かりそうや」 「メアリちゃん、ずいぶん上手く生きてるみたいだ。うちの子たちも上手くやってたらいいんだけど」 「へっへぇ、おおきにな。アンジェリカも素直なええおかんやおもうで」 「世話ないことさ。博打みたいな出稼ぎに掛けて都会くんだりまでやってきて、こんな可愛い子に褒められてんのはね」アンジェリカはゴランが見たことのない顔つきをした。 「その服を上の子ふたりに買ってってやりたいな」 メアリは包みを捧げ持ったまま首をぶんぶん振った。束ねた後ろ髪が小さな主人に従って二重に断っているようだった。 「これは高いが売りものではないんや。うちも調べたがどこにも売っとらんかった。だから、うちの素性の手がかりちゅうわけや」 「メアリちゃんのものは取ったりしないよ。ガイデンハイムの名産かと思ってたんだけどな」 「二人とも素性を喋るのが好きでしょうがないんだな。とっとと返しに行くぜ」ゴランは女たちを置き去りに歩き出す。背後に、「不機嫌……」と異口同音の呟きが同時に生じてぶつかったかと思うと二種類の笑い声に変わる。自分への評価が背にちくちく当たるのを感じながらゴランは歩く。 |
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