モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

6.入門III



「昼間からゾール様に参拝するのはなにか憂えるものがあるのだろう? 可愛いご息女を連れてな」マンモンの言葉を耳にしたメアリが天を仰いだ。

 神官の背後に鳴り響いていた肉を叩く音はやんだが、マンモンは気に留めなかった。

「いや、無関係さ。することが無いから彷徨っているのはこいつ……この子のほうだ。そうだ、そのことをゾール神におすがりしたくて来たわけだよ」ゴランの言葉にメアリはなんとも言えぬ表情をした。

「ほう、わざわざ乞食と知りおうて商売を手伝ってやっているのかね。貴殿の考えた情けか?」マンモンの顔はかすかにこわばる。

「もう疑わないでほしいな。悪さをしに来たわけじゃない。たぶんこいつもな」ゴランは神官の背後の少女のことを指した。メアリの機嫌は悪そうだ。「物見遊山の客に物乞いが寄ってくるのはよくある話だろう?」

「ほう? 貴殿はどこからガイデンハイムに?」マンモンとメアリが興味を示してきた。

「……メルド河を遡ってさ」

「旅人が出先で乞食に同情を示すのはよくある話だが、目的は何だ。鍛えた身体、据わった肝。長衣に隠してもわしには分かるぞ。あたりに気を配れば逆に気取られるものだ」

(盗人が現れて気が立っているんだな。俺の仕事に関わりがあるとまでは思わないでおく。釣りこまれて余計なことを喋るのが一番良くない)行列に倦んだ気持ちのままのほうがまだしもだったとゴランは思った。

「だから、単なる物見遊山さ。ゾールの大書画の偉容はかねてより聞いていたからな」

「ふっふっ。わしが喜ぶと思って言い立てておるな。しかし今ウルフレンドの南西に近寄りたがる者がいると誰が思う? エルフとオークとケフルどもがこぞってきな臭い匂いを立てておるのだ!!」マンモンは天幕を支える柱のひとつを素手で思いきり叩いた。柱は轟音で悲鳴を上げメアリは目をむくが、神官の太い腕は痛みを感じぬがごとくであった。

「薬売りもしてるさ……薬は売らなきゃならんし、買わなきゃならん奴もいる。そういうもんだろう? いま持ち合わせがあったら寄進したかったな。なぁ、神官様は入国の審査もするのかい」

 神官は自らの鍛え上げた筋肉を笑わせた。「いやいや、怯えさせてしまったかな。我らはこの国の役人どものように無体なものは要求せんよ」

「いやいや、こうした慈善を行っているのを見たら分かるぜ」対話するマンモンとゴランをメアリが後ろから眺め渡している。口を閉じ肉を切り続けている少女にはいかにも疲労がにじみ出ていた。

「ふっふ、そうかね。非礼をわびて茶を進ぜよう。おい、適当で構わん、淹れよ」

「お茶!? う、うちようわからん」「茶も知らぬのか」「お、おしえてもろたら」

「無理ないぜ。湯を沸かすにもさまざま入り用なものだ」「ふん、湯さえも手が届かぬか」メアリは再び口を閉じた。

「まあ言いつけもできぬ子供などどうでも良い。そしてどうかね、この国の有り様を旅人殿はどう思うのかね。ゾール様に楯突いた光の子の末裔は十分に治めていると言えるか。いや、放蕩の挙句治めてさえいないのだ。信仰の心篤い貴殿は我らに賛同してくれよう?」

「旅人と浮浪児。寄る辺ない子らよ。この、いくさの近づく都の中で明日にも消え入りそうな者ども。そうなっても誰も気に留めぬ。この悪徳の都ではな」メアリがマンモンの背後からゴランに視線を合わせてきた。少女は眉を非常にひそめている。

「ゾールの加護が必要ではないかね!!」マンモンは両手でゴランの手を取った。ゴランの持っていたゾール信徒の服の包は地面に落ちる。

 ゴランは自分たちの立場が弱められていくと感じた。(余計な仕事を頼まれそうだ)