モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

7.分かったこと



「さあ、共に決断しようではないか。いや、しなくてはならんのだ、すぐさまな。見えよう、西北よりいくさの炎が音を立ててガイデンハイムに迫りくるのを!」

 ゴランは黙って自分の手を覆う神官マンモンの拳を受け止めていた。両手を上から塞いで離さぬ重み。

「俺はこの国のものじゃないと言ったろう。ガイデンハイムのためには戦えない」

「はっはっ」神官は笑い出す。「エルフや、……オークと決闘して勝てと言ったのではない。もう光の子の時代ではないのだからな。七つの秘宝の神代から時間が経ちすぎたよ」

「メルドの清流も流れて続けておれば疲れてくる。岸と底の泥を巻き込み口に入れてしまう。血の管が栓を生ずれば病を発する。しかし貴き血筋はそこに在るだけで正しいと呼ばれる」

 目の前で行われる説教をゴランはただ聞いていた。(歌い慣れている)と彼は感じた。

「わかったかね。さっきも言ったが、君の油断ならぬ様子をわしは買っているのだ。ここまで胸襟を開いたのだ。そのことも考えてもらいたい」

 外の賑わいに対して天幕の中は一瞬静まり返った。メアリが包丁を止めたのだ。

「この国は内から変えねばならぬが、抑えつける大きな力が妨げる。しかし風穴を穿つこともできる。それは一人の英雄の行いだ。わしは勇者の到来を待っておるのだよ」

 ゴランは頭巾の上からこうべを掻いてみせた。「よく分からないな……。大きな話かい? 俺は仕事で手一杯さ。それほど酔狂でここへ来たわけじゃないんだ」

(手土産があればな。高価な薬をたくさん渡せばごまかしがついた)ゴランは行李から離れて身軽になっていたことを先程から後悔している。

 マンモンは顔に笑みを作った。「ふふふふ、まさかだいそれた話だと勘違いしているのかね。我らは国教の輩だよ。キルギル・ゾラリアの有力なお方も我々の展望に賛意を示しておられるのだ。故なきことではないのだ。迫りくる危機に対して正義を行うのだ。あとは君の勇気次第だよ」

「ますます難しいなぁ」ゴランは肩をすくめてみせた。「もし偉いさんの裏書きつきと言うなら、どこの馬の骨とも分からん俺に執拗に頼む必要がどこにある?」という言葉は発しないでいる。神官の急変する態度はゴランに本心を読ませない。

「ならば簡単な話に変えよう」「うわ!」マンモンはいきなりつかつかと近寄って、メアリの背後から大きな手を少女の両肩に乗せた。

「この子は厚遇してしかるべきだな。見るからに哀れな身の上だ」「お、おおきに」メアリは声を出した。ゾールの神官に気に入られたいがためのかすかな声とはゴランは思わなかった。自分の手はまだマンモンの力がこもっているかのようにこわばっている。「勇気を出せ、というより責務だよ。かかっておるのはこの国のこの子の未来だからね」

「おい、いきなり子供をおどかしてやるなよ」(敏速だな、神官)ゴランは目測でマンモンとの間合いをはかる。目標の懐のメアリの顔色の白さも同時に目に入った。

 メアリがちらちらと視線を動かし始めたのも分かる。上と、こちらに。