モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

2.入門



「ねぇ……ねぇ! 機嫌を直しなよ。メアリちゃんに言うこと聞かせてくんない?」

「なんなんだ。服を返しに行くだけで時間をかけるんじゃない」ゴランは踵をつかつか返し一息にメアリに近寄る。

「わあ、盗んなや! よごしたら一巻のおわりやないか!」

「前も見えずにふらふらするな。俺が返してきてやる」ゴランはメアリの荷を引っ張るが、小さな子の力で引き返してくる。

「女の前だからとかっこうつけよって。うちにいきなり優しくするんやない」

「こっちの台詞さ。ゾール教団に取り入りたいんだろう。丁寧に服を返したくらいで」メアリは口を閉じて歪めた。

「まあまあ。メアリちゃんが真面目に働いたのはほんとのことだろう。やらせてやんなよ。普段働き口がないんなら、逃しちゃだめだ。でも長衣は着こなさないとね。足を左右に上げてえっちらおっちら運んだらお坊さんにも気に入られないよ。その抱えてるものだって、上下一揃いの二着の長衣だ。無理しないで、このお兄ちゃんに持ってもらいな」アンジェリカが割って入る。

「おおきになぁ。おばはんはほんま親切なおひとや」「ふん……世情不安定なら宗教の羽振りはよくなるし、餓鬼ひとりくらい気まぐれに閉じ込めておいてくれるかもな」「おっさんは憎まれぐちをいいよるわ」

「こいつに優しくしたら、どこまで盗られるか分かったもんじゃないぜ。さっきも言ってやったがな」

「おにぎり一個をあげるくらいで目くじら立てなさんな。それに、あんた、この子が尼さんになったら嬉しいって言ってたじゃない。さっき」

「それだけがこまりもんや。みてきたとこ、みんなほんまに坊主みたいやった……」メアリは首をぷんと回した。重荷で塞がった両手を使うまでもなく、長い後ろ髪は主人の首まわりに寄り添う。「それはそうと、ゾールさんのおにぎり一個とおばはんのおごりの一食やろ。さりげなく値切ったらあかんのやで」

「はいはい、一品ね」


「おい、更に人混みが増してるじゃないか」「これ全部、ご奉仕者の行列かい。参拝客より多いんじゃないの!」

「もう〜〜! ふく借りるんはすんなりやったのに、なんやこれぇ。うち、おにぎりもらったらすぐ消えるからとおしてくれへん!」三人は神官らの待ち受ける場に登ってきて途方に暮れた。

「お前と同じ、甘い考えの奴が大勢いるのは当然だな。じゃあな」

「ああ、二人とも並んでてくんない」アンジェリカが帰るゴランの行く手を軽く阻んだ。

「そんな顔しなさんな、先生。こういう場に一人で並ばせたらいかにも危ないじゃないか」

「俺の隣にも盗っ人はいるしな」「うちのそばにも怪しいおっさんがおるわ」

「こいつに情けをかけたいなら、アンジェリカが最後まで面倒を見てやれと言ってるだろ」

「結構かっこうのいい美人はんと怪しいおっさん、どっちが人気があるとおもとんねん」ゴランは舌打ちさせられた。

「ねえ頼むよ。メアリちゃんに誓っちゃったんだからさ」「誓いやて。へっへ」ゴランは舌打ちする気分にもならない。

「あたしは二人にそこらで何か買ってきたげるよ。出店がたくさんあるようだから」

「あっ! あっ! うちはええ、うちが直接えらぶ!」

「大丈夫だって。あたしが一品買ってきたいんだ。メアリちゃんはあとで一品自由に買えばいい。今は何がいい?」

「ほんまか!! おばはん、ほんま……天の使いか!? な、なんにしたらええか」

「おい、行くぞ。さっさと並んでさっさと済ませる」ゴランは振り返りもせず更に坂を登っていく。

「あ……ああっと〜〜。せや! 銭になるもんにしてや!」

「えええ? この子のがめつさがちょっと分かってきた気がする」アンジェリカは頭を抑えてみせた。紫の豊かな髪を掻く。

「早く理解したほうがいいぞ」ゴランは足を止め坂の下へ振り向いた。