ゴランはアンジェリカを見つめ返した。「そんな顔をするな。多貌の神とか、化身という考えもあるのさ。セテトにも獣面と人面の二つの像があるじゃないか」 「信じらんないよ。光の勇者のパーティは四人きょうだいなんだーってこれ見て思っちゃったよ。ほんとに?」アンジェリカは頭巾の下に手をかざす。 「史書の流れは一貫しているが、場面ごとに光の子の人物が違っているんだ。それをなんとか解釈したらこうなったんだろう」ゴランも大書画を見上げた。ヒューマンの神と光の子(たち)の闘争の図。 「四人が単に入れ替わってただけじゃないの」紅白の長衣をまとったゾール信徒は薬売りの側を向いた。 「なんの必要が? 役割や言動は一致しているんだ。だから同一人と解釈されている。それより、そろそろお開きにしたいね」陽射しは二人の頭巾の下にくっきりとした明暗を作っている。 「いいや、関係あるからもっと聞かせてよ。やる気が出る」アンジェリカは書画の向こう側を鋭く睨めつけた。 「……。従者像は一定しているからな。光の子が変装のようなことをする意味もないはずだ」ゴランはブルガンディに住む丸い顔を思い出す。《のら犬亭》で最も若く、気質も子供のようだがそれも貌の一つかもしれない変装の名手。 「ダイヤモンドの騎士たちか!」「いや、叙されたのは旅のあとさ。七つの秘宝の功績でな。あとは三角帽子の魔女だな。魔法なんてあるわけがないから、なんらかの技能使いだったのだろう」 「へぇー。不思議なことはないって言うんだ。墓地の底なんかにありそうだけど」「おい!!」ゴランは周囲の人の群れを見渡すことはしたくなかった。傍らを見れば、もうひとりのゾール信徒はまた地面に平らになって手足を広げていた。 「どうせ何かのからくりや真相があったのさ」「そんなに強がってるとばちが当たるよ。結局なにも分かってないんじゃないか、先生さん」 「ああ。この世で一番偉い皇帝の正確な記録がなされていないんだからな。普通の人間には及びもつかないから信仰を集めているというわけだ」 「うーん。神様だってやっつけられるかもしんないね」ゾール信徒が腕組みをした。 「その子孫のこの国も偉いのさ。今上皇帝の名はモルダットだったか?」 「なに言ってんだ、皇帝は空位だよ。不敬だねー」 「えらいさんははよう衆生を救ってやぁ…」地面のほうから声が聞こえた。 「おっと、お嬢ちゃんがへたばりそうだ。そろそろ、お祈りはお開きにして服を返しに行こうね」 「メアリや。めぐんでくれはるなら特別になまえ教えたるわ。ふだんなら簡単におしえへんで、うち」 「本当にうそつきだな、お前は」ゴランはメアリの手を取った。 「偽の名前でもいいじゃないか」アンジェリカも手伝い、少女を立たせる。 |
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