少女の暴走につられゴランも教団の内幕に入った。暖簾をくぐるように緞帳をめくり上げる。 中は昼の陽光よりほんのり薄暗い。 「なあ! 服かえしにきたで! ……ましたで!」メアリのけたたましい声が、受付とおぼしき人物を気づかせた。 すると彼は非常にゆっくり振り返って、ゴランへと疑り深い視線を投げかけてきた。蓬髪の白い頭をした老人だったが、袖のない服装からのぞく筋骨は隆々。神官らしからぬ強面だった。 「俺はただの行きずりさ。その子の用事を早く済ませてくれたら助かる」 「ノームではないのか。子供に服を貸した覚えはないが」老人は受付席から上体を乗り出してメアリの姿を認めた。蓬髪の先々が少し地面の方へ向く。 「はあ!? うちはたしかに! ……い、いや、お仲間にたしかめたらどないです?」 老人は頑なな面持ちでメアリの提案と同じことをしたが、「ダイモンめ。もういなくなりおった!」 (なら残ったこいつがマンモンか。命を出されたダイモンは慌てて盗人を狩りに行ったわけだ)ついさっき聞かされたばかりの大声を今も耳に入れられて、ゴランは判断がついた。「とにかく、この子が紅白の僧衣をちゃんと着ていたのは確かさ」 「ふん。服をよこしてさっさと立ち去れ」するとメアリは横歩きを始めた。 「どこへ行く! 貴様も盗人か!!」 「せ……せやかて高すぎて見えへんもの」メアリは受付席を回り込もうとする。「中へ入らせてえな」 「きっさま……」「俺が返してやるから、よこせ」ゴランはマンモンを抑えるために言った。 「二人とも動くな。だいたい一人ずつ入ってこないのがおかしかったのだ。互いに息を合わせて握り飯を盗むのが目的であろうが」 「そ……そないな……。う、うちもうおにぎり一個もらえたらええわ……」 「本当のことを言うよ。こいつは入信したいのさ。気に入られようと小賢しい真似をしている」 「ああん! 印象のわるいこというなや!」メアリはゴランを振り向いて、非常にしかめた眉を見せてくる。 「疑われたら洗いざらいぶちまけるのがいい」 「ふん」マンモンは二人に目をくれず、受付席の一角にものを並べ始めた。皿、燭台、盃。 「な、なんや、いまご飯にするん、ですか?」 「馬鹿者。ゾール様に捧ぐ聖餐の頃合いなのだ。信徒の端くれなら当然知っているであろう?」 「もちろんや!」息巻くメアリに、ゴランは心の中で吹き出したい気持ちになる。 「ぼろを出す前に止めるぜ。自分を良く見せようとして痛い目を見るのはもうやめるんだな」 「うっさい!」メアリは顔や耳まで髪のように赤く染まった。そしてゴランの次はゾール神官マンモンのほうを見、再びゴランの方へ向く。 「うち、せいいっぱいゾールはんとマンモンはんのおてつだいしますよって!」ゴランにゾール信徒の服を押しつけ、マンモンにすり寄る。 「そこのおっさんはこれでもう怪しいうごきでけへんし、おにぎりもいらんそうですから」 そしてメアリは神官の蓬髪を嬉しそうに眺め、ゴランを振り向き小さく笑う。「尼さんにはならんですみそうやし、うち本気だすわ。ようやくおっさんとはここでさいならや」 |
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