食事は続行されたが、エ・ガルカは時々フォークを手離している。ガルーフは鼻を鳴らす。 「ちっ、ヒューマンは食事中に文字を書くしきたりがあるのか。俺への当てつけか? 自慢げに遊ぶな」 「いいや。エ・ガルカは不作法だがわたしの名において許してほしい。今は非常時なのでね」 「なんだよ非常時とは……」ガルーフは訝しげな視線を作ってファンタール卿に投げた。 「よもやオークは文字を知らんのか」レイランドが訊いてくる。 「そんなことあるもんか。ジングは吟遊詩人だから歌集を持ち歩いてるだろ。ゲーリングのじいさんは宣教師でもあるから教典を持ってる。グロールは……海外で商売するような奴だから頭はいいはずさ。何も知らないのは俺だけだろうなあ、考えてみたら」ガルーフは料理をつついて転がした。 「本当に貴様はオークにしてはよく喋る。やたらに言い訳がましい。無知を恥じるがゆえか」レイランドは肉を噛んだ。その真向かいでまた紙とペンの噛み合う音がするのでガルーフの機嫌は悪くなる。 「俺は取り調べを受けているわけか。荷物調べの衛兵か、お前ら」 「特使殿。残念ながらオークの吟遊詩人や宣教師は平和時には大きないざこざの種だ。官憲の立場からすればな」言いつつも筆を運ぶエ・ガルカ。ガルーフからすれば目にも止まらぬ神技に見えるのである。 「最も税になりづらい連中ですからね。民への影響は大きいくせに。大きな鼻声だ」 「このぴかぴか野郎め。自分がいちいちうるさいぞ」ガルーフはテーブルの上に手を伸ばす。酒を食らって心を鎮める。 ファンタールが酒瓶を傾けてきたので仕方なく受ける。「海外のオーク殿の話を聞きたいね。わたしの固くなった頭では想像がつかない。よもや、テレシア大陸へ出かけたのかね」 「やなこった。これ以上勝手に軍隊の内幕を喋ったらガーグレンにばらばらにされそうだ。酒の席で久しぶりに嫌な奴を思い出させやがって。……テレシア大陸?」 「ガーグレン? ガーグレン将軍?」 「げっ」今さっき同胞の名を並べ立てていたので勘違いがあった。ガルーフはテーブルに肘をついて本当に頭を抱えた。 「さすがはファンタール卿。大釣果です」レイランドも食事の手を止めた。 「ガーグレン将軍、武張った人物ですな。機動力があり、勢いに乗ればまさに強い」「まあな……。そういえばよく走らされたのも関係あるのかな。ああ、いかんいかん。くそぉ」ガルーフは自分で尻馬に乗っておいてエ・ガルカを恨んだ。 |
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