ガルーフはヒューマンの手から解放されたが、それから大勢と一人による相対が無言のまま続いた。 しばらくして金属の重なる足音が闇の中に聞こえて、再びヒューマンの援軍が訪れた。 さすがに機敏だとガルーフは思ったが、到着したのは一人だった。 「オークめ、ついてこい」険のある声だったが、早速後を追おうとする。ペガサスのことを思い出した。彼女に声を掛けてやると、貴婦人はぷいっとそっぽを向いてヒューマンの馬番の後をついていくところである。馬は機嫌のよさそうな鼻息を立てている。上等な飼い葉に向けられているものだろう。 「オークは静かにしていろ」ヒューマンの先導がさっさと歩き出して言う。彼の様子が闇の中でも薄ぼんやり分かる。全身を金属の板でびっしり鎧っているらしい。自分の腰のサーベルではやりづらい相手だろうなと思った。 ヒューマンの陣中はまったく暗かったのである。明るいのは外周の歩哨たちに持たされた燈火だけという造り。日中の事故でこの深夜にたどり着いてしまったのだから当然だった。しかし昼間に訪れていれば、先程のようなヒューマンとのすれ違いは物理的にも精神的にも確実に多かったわけで、ガルーフはこの成り行きを有難くよしとした。(バラン様はわざわざこんなせこい真似はなさらないだろうが) ガルーフは大きな天幕の前に通された。ヒューマンの陣でもひときわ美麗な布で作られており更に装飾が被せられている。この意味するところは分かる。 「さあ、入れ。すぐ後ろについているから安心しろ」先導の戦士はガルーフの肩に手を置いてきた。 「ヒューマンの作法はさっぱり分からん。今にも後ろから斬られるみたいだが」 「とぼけて偉そうな口を叩くな」 「なんだ、普通の無礼だったか。何もしやしないぜ。自分の身ばかり案ずるなよ」言ってやってから、ガルーフはさっさと天幕に入ってやることにした。 まず閉じ込められていた光に驚いた。何重にも飾られた燭台に目が眩んだ。思わずつぶったオークの瞼に赤色や青色でできた光の残像が素早く取り付いた。 意地を張って開けた目に、次に綺麗な食事が入ってきた。食材も器も目を奪うもので、ダグデルで味わったものの記憶を軽く跳び越えた。本当にあれらと共通のもので作られたヒューマンの食卓なのだろうか? 広いテーブルの向こうから声がした。二人いて、一人は口を開いていない。黙って侍立している。 「やあ、ブルグナの特使」真ん中の椅子から喋っているのはケフル軍総司令官のファンタール卿。隣は副官のエ・ガルカ。 そしてガルーフの後ろ、白銀の騎士のレイランドは司令官に深々と一礼した。 |
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