オークが雨を拭うたび、腰のサーベルがちゃりちゃり音を立てる。オークの武器に意外に整えられた輝きがあって、門番のバックにはそれが恐ろしかった。 「よう、早く取り次げよ」ガルーフなりに堂々振る舞うことに決めていたので、ヒューマンにしびれを切らしたなどと思われたくなかったのであるが、むしろ相手の動きが硬いとガルーフは思った。 「おう」返事の声も絞り出されるようなものに聞こえたが、つと顔をそちらへ向けたらヒューマンは増えていた。 (静かな夜中の異変は伝わりやすいよな)広大な陣地には見張りの数も多かろう。ガルーフがそう思ううちに、預けた書状は集まったヒューマンの誰かに手渡された。最初に出会ったあごひげの見張りはとどまるらしい。 「大将にしっかり渡すんだろうな?」書状を預かったらしい数名がこわごわこちらを振り返って奥の闇に消える。その姿はなかなかガルーフの笑いを誘った。それからガルーフは夜空へ口笛を吹いた。 ぐっ、と自分の腕が背中へ曲がった。不意にヒューマンに掴まえられたのである。 「野郎、騙し討ちか」腕を背中へねじ上げられれば叫び声も出しづらい。 「黙れオーク、仲間を止まらせろ」バックがショートソードをガルーフの喉へ置こうとしている。他のヒューマンも陣外の闇へ向かっておのおのスピアを連ねていくのを見るとガルーフも理解する。 「分かった、分かった。俺が悪かったよ。呼んだのは一人だけさ」ヒューマンに捕らえられながらガルーフは笑った。 軽妙な足音をもって闇を分け、様々な荷を背中に走って来るのはペガサスだった。 「こいつの身体を拭いてやって、しかも厩舎を分けてくれたらヒューマンにだって感謝してやるよ。他にどんなモンスターが寝ていても構わないぜ」 「馬鹿め。こちらだって馬を使っておるわ」バックが言った。 やはり下手なことができん、とガルーフは思った。 |
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