後ろの銀色の戦士は堂々と立っており、入ってきた幕を塞いでいる。ガルーフは振り返りその騎士レイランドをひと睨みする。 「いま俺は無礼を働かれたけども、怒らないでおいてやる。俺だってダグデルで不安にさせられたけど、必死に走り回ってみるうちに全てはどうということはないんだと分かった。おまえたちヒューマンだってオークに震え上がる必要はないって、すぐに分かるはずさ。ええと、神代より伝わりしはヒューマンの原罪なり……」 ――南の要塞ダグデルを引き払い、食料品を我ら義勇の兵に宛てて残すこと、誠に天晴れな行いとオークの公正なる評価を我らが偉大なる王グラードの名においてここに下すものとする。千年なる過ちを急激に反省することは誠に不審なれど、諸君らは殊勝にして単純なる悔悛の証を示したと、勇者たる我らの寛大なる解釈を施すものとする。早馬は既に北へ差し向けており、我らが聖王家の賢明なるご回章も日を待たず来たるであろう。その間、悪の垢を洗い落としたはずの諸君らの白心に再びゾールの欲が詰まらぬよう、重々警戒を怠らず精進に務めるよう、衷心より薦めるものである。大神バランは天空の遥か燃える陽に乗りて全てを見下ろしておいでである―― これで合っているかな?とガルーフが尋ねたのでファンタール卿は思わず吹き出した。口元の白髪ひげが一瞬割れた。 「やはり完全に図に乗りましたな、オーク」エ・ガルカの外面は落ち着いて見えたが、レイランドの視線は明らかに怒りに燃える。さすがのガルーフも場の空気を感じた。 「文面はともかく聞き惚れたよ。うむ……ガルーフ君というのか。オークの詩人だったのかね?」ファンタールは片眼鏡を使った。ガルーフが先に衛兵のバックに預けた書状を覗いて、また片眼鏡をしまった。 「上品な詩人に悪いというもんだから馬鹿にするなよ。君なんて言われたら俺は気持ち悪がるしかできない」 「そうかね。オークの詩を少しは解するつもりだったが。ヒューマンの中にも共感して涙を落とすものだっている」 「嘘をつけよ。殺し合う相手なら死んだら喜ぶだけだろ」 「戦うということは顔を合わせて相手の悲鳴を聞くということだ。卿は司令官として何度も痛烈な思いをなさっている」 「こちらのエ・ガルカもわたしの忠実なる副官だよ。いくさを何度も共にした。ガルカ、何十年の付き合いになったかね? さて、特使殿はヒューマンと夕げを共にする気はないかね。外はモンスターの徘徊する頃だね。完全なる闇を迎えるより宿敵と語らうほうが安全ではないかな」 「ううむ」ガルーフはグロールのけちな弁当のことをまず考えた。考えると余計に腹が減る。 「まあな。ダグデルも俺の一食分が浮いたら楽に思うだろうさ」 「ほう、かの地はやはりそのようになっているか」レイランドは客人のために椅子を引いてやった。 |
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