モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

9.南へ動く



「ほら、ジング、グロールのご馳走だぞ。とっておけよ」
 出立を見送っていたのに自分が荷を受け取った。詩人は戸惑った。折詰めは温かい。
「ちょっと、なんなんです」グロール隊長が割って入ってきた。両腕を振って、(黙って弁当箱を返して)というしぐさを何度もした。(人の間で面倒を起こすのが趣味なんですかねえ!)
 杖が振るわれて、先端の豚のひづめがガルーフの頭を叩いた。ブルグナの象徴である。
「お主、門番に斬られたいか」ゲーリングが叱った。南の大門。見送りは三人であったが、敵――今のところ――の方角に開く扉とあれば人は多く、緊張の度合いは高い。
「じいさんにも食ってほしいところだが、ジングは見るからに痩せてる。女にもてない詩人なんて悲惨だぜ。まさに飢え死にだ」
「もてないこと、ないです」反射的にジングが逆らう。照れて頭をかく前にグロールがまた割って入った。
「もう十分わかってます。ガルーフ様の意地の男伊達っぷり、まったくご立派。死ぬほどご立派。適量、飯は抜いてあるんです。ほら、中身なんか確かめないでしっかりとしまい込んでね」

「ガーグレン閣下に見送っていただくべきじゃったな。使者が行儀が悪くてどうする」ゲーリングは杖を肩に寄せて首をもたれさせた。
「冗談じゃないぜ」
「大事な使者がさびしい見送りではのう。労ってやらにゃいかんよな」
「冗談じゃないぜ」
「将軍は後続隊のお出迎えがあって、準備に忙しいらしいす」
「へえ、味方が集まってくるのか」ガルーフはグロールに訊く。
「屋根の過ごしやすさは何物にも代えがたいもんです。あと、ここに至る道だってひとつしかないわけではないです」
「俺の兄貴たちも別々に兵隊に取られた。誰か会えるかな?」
「何人兄弟ですか? 興味深いですね」ガルーフは笑ってジングに片手を開いた。無事なら全部で五人だ。「みんな結構な使い手だぜ」
「弟は昔から生意気だったようじゃな」「はは。俺のいない間は告げ口はよしてくれよ。兄貴たちがのろまでなければ見送りも少しは格好がついたのにな」ガルーフは言い終わる前に番兵に寄った。手続き書を番兵に渡す。念入りに巻物を確かめる兵を置き去りにガルーフは南へ去る。
「早く馬へ乗って」グロールの声が背中に追いついた。「後で乗る。後でちゃんとな」
「ガルーフ様、馬の操り方を知らなかったですよね」ダグデルの初日のことを思い出したジングがグロールに囁いた。「格好のつかぬ奴」ゲーリングが言う。

 しばらく歩いてからガルーフは思った。(ダグデルに食糧が集まったら問題はみんな解決するんじゃないのか?)砦はすでに遠くなった。