ガルーフは衝動のままグロールの手の小さな書状をひったくった。「ヒューマンの書いた文字か」目に入るのは分からぬ紋様だけだ。 「粗末に扱うな。オークの運命を握り締めているのと変わらぬぞ」 「余計に破り捨ててやる」すかさず力を込めたところへ再び飛び込んだものがある。掌中のヒューマンの邪悪なる意志から片手を離して防いだ。ガーグレンが投げガルーフが受け止めたのは大きな鶏の腿である。 「もったいないことをするなよ」 「ああ、確かに。オークの恋焦がれる食い物だからな。ブルグナの飢えた民を簡単に癒すことができる。ただしヒューマンの贈り物だ」未だ満たされるガルーフの腹。ガーグレンの言葉を耳にした途端、その中身がひとつの大きな石塊に変わったようだった。 「朝になっても腹が空かんぜ。グロールやジングはオークの弁当しか口に入れてないんだろう? やるよ」鶏肉を隣にほうった。敵の兜を引っ叩くためのクラブほどの巨大さ。一塊でブルグナの複数人を救えるかもしれない。 「詩人さんは線も芯も細いから昨日はガルーフ様のほうよりも心配なくらいで。後で権限を使って彼のぶんまで食材をもらっときますからね。あっ! やっぱりグリフォンのお肉だ。うまいなぁー。久しぶり」グロールは有り難げに肉を頬張っている。ガルーフは舌打ちする。 「こんな紙なんぞより持ってきたヒューマンのつらが見たい。けちょんけちょんにしてやりたいから引っ張り出して来いよ。捕まえてあるんだろ」 「そんな狂犬みたいに怒りなさらないでください」グロールはグリフォンの引き締まった肉をあわてて呑みくだしてガルーフをなだめた。 「意気盛んなこの軍団にヒューマンが近付けるものか。矢文がほうり込まれた」 「そうか、矢に付ければいいのか」ガルーフは不意に文字の有用性を知らされたようである。 「じゃあ見張りは何してた。昨夜だって城壁の上に動く松明の列が病院から見えたというのによ。ガーグレン、髪にヒューマンの矢が絡まっているぜ」 「また繰り言を……。うかうか暗殺されるなとほざくか。この不敗の塔を貫けるのは神代に在ったユリンの弓矢以外にあるものか。峻厳なるダグデルは今や我輩の、オークの足元にある。その意味を分かれ」 「歩哨にもご馳走してやらないとかえって危ないですからね。内のお祭ばかりじっと見つめるようではね。あと、お仕事をしながらかじるグリフォンのお肉は最高でしょう? あっ、あっ。あっしの気持ちではなくて」ガーグレンに向かって手を振るグロールにガルーフは口の端をゆがめる。「よおく分かったぜ」 「これ以上の文句は砦の外でほざくといい。馬を貸す」従者に指示を囁きつつガーグレンは言う。 「何」 |
|