「逆にヒューマンにお礼を言ってこいってわけだろ。引き受けたぜ」 「ほう、怖がらないな」「さすが……」「確かに馬鹿よな」ガーグレンがグロールに同意を求めて平隊長は応じた。 「またも逆さ。お前たちが臆病なんだよ。ヒューマンの土地でふんぞり返っているが、実は森のカーシーみたいに帰りたくてしょうがないんだろ」 「我らオークは高貴な義勇の兵だが、ヒューマンを甘く見て仲間を侮るのは貴様だけだよ」ケフル製の精巧なグラスに黒い瓶を傾ける。注がれてグラスと酒瓶を繋ぐのは赤い流れ。レッドストーン酒の香りだが、非常に嗅ぎやすいなとグロールは思った。 あの地底から持ってこさせた氷をたっぷりと盛っていく。将軍の手元はブルグナの王城にさえ羨望される価値があろう。もしかすると凍土のブルグナよりも火山ボンベートのお膝元のブルガンディでさえ幅を利かせられるかもしれない。そのままグロールはかの島を一瞬だけ懐かしく思った。彼さえもこの地で様々な代物を手に入れたのである。 その思考を破ったのはガルーフである。「じゃあ行ってくるぜ。南に出たら街道があるんだろ?」相変わらずこともなげに言う。 日の高いうちに出かければ少人数を狙うモンスターを避けられる。そう思って既に踵を返すガルーフの背中をガーグレンの大きな声が繋ぎ止めた。 まだ余裕があるのだから勉強せよという。 「国の坊主どもより出来の悪いのがいるとは思わなかった」 「村の親みたいにうるさいな。懐かしいぜ」 「ガルーフ様は言い返すのをやめましょう。暗唱なすって」 ガーグレンの方が口喧嘩をよした。グロールをそばに読んでなにやら言うのだ。グロールが唸った。ガルーフは眺める。「今更こそこそ悪口か」「いえ、ええと、ガルーフ様は、言葉の意味をまさにしっかり考えなさるとよろしいかと。それならお分かりになる方だと思ってますよ」 「敬いの言葉を一つも知らない輩になんの希望があるか?」ガーグレンはグロールの顔を自分の声に向かせた。 「ガキの頃は詩だってすいすい頭に入ったんだが。割合あたまが固くなっちまったなぁ。そうだ、ジングを呼んでくれ」 司令塔の窓の外からしょっちゅう賑やかな喚声が起きているのだ。オークの大いなる戦勝の歌。 「今回、詩人と神官たちには逆に抑え役をやらせておる。自らを律するバランの騎士の道だ」言い終わると笑い声が塔を貫いた。 「何もかも馬鹿馬鹿しいな」それからガルーフは覚え込んだ文句を唱えあげた。外の歓声に負けじ。 「うるさい! 間違っておるぞ。恥ずかしい奴」 |
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