7.ヒューマンの勘定
「病気を治すのにも元手がいるでしょ?」
「医者代か? 病なんてのは辛いケルの球根でも取りに山に入ってやれば早いぜ。苦労して治るほうが強い子ができるもんだ。北へ帰ったらゲーリングのじいさんに強く言ってもらうことにしよう。藪で暴利な医者どもに向かって喝をさ」
「そっちの方面のお話はどうかまた今度で……いや、そうそう、ガルーフ様の鼻だってケルの球根を嗅ぎ当てるのは時間がかかるでしょ? お弁当がご入り用でしょ?」
「そういや道中の弁当も要るな。昨夜食いまくったけど腹は減っていくんだろうなぁ」
「ガルーフ様、また一人で駆けられるわけですから大盤振る舞いにしますよ。しかし景気のよい話をするのではなくてですね」
「おとなしく聞いているだろうが」グロールはその前に、オークの兵隊によってあまた作られた幕舎の手頃な一角を探した。そびえる分厚い布地が会話の声を漏らさない。
「我々は腹を空かせたかあちゃんや子供たちの住んでる本国のためにここに来たわけですよね」
「あと足りない武器をヒューマンからいただくために戦うんだとさ。ガーグレンが言っていたぞ。馬鹿極まる話だよ。思い出したくないのに忘れられない」しかしガルーフは首を傾げた。「ここが労せずして手に入ったからその話も変わったわけで……悔しいがガーグレン将軍ご勝利おめでとうだ。俺にはさっぱり分からないことだ」
「オークの勝ちじゃないです。あくまで譲ってもらえただけです。ダグデルもヒューマンの食糧もね。手紙が来たのは見たでしょ」「ヒューマンはとても勘定の上手な種族です。あっしはシャーズが一番と思ってますが。……ヒューマンの独特の几帳面さと陰気さ、あなどれないですよ」
「遠回しが俺に分かると思ってるのか? いい加減怒るぞ」ガルーフは植えてある天幕の杭を足でいじめ始めている。
「言いづらいからですよ……帰り道の食べ物がないなんて」言いながらそっぽを向いた。