6.任務考
「まだ何も口に入れる気にならない。生まれて初めてかもしれんな」ガルーフは日の昇った空を見た。「向こうから帰る頃まで腹がすかないかも知れん」顎をあげたら腹もそのぶん張る。「それまでジングやゲーリング老に俺のぶんをやっておけ」
「心配だなあ」グロールも南の空を眺めた。米粒のような見張りが大勢動いているダグデルの城壁。壁を遥か上空にまたぐ雲があった。やや濁った色だ。
「降るかな。面倒だ。バランの神官のくせに火祭りが下手くそだ。降られて苦労するのは俺だけか? まったく」城内は浮かれた心を冷ましながら火を消し始めたところである。
「元々暖かい地方ですし、湿気も多いかも。雨具の方も融通を利かせられるか試してみましょう」
「こまごまと苦労だな。戦いだけやっていたくてもさっぱりだなぁ、おい。ガキの頃は戦場の手柄の詩をよく聞いたもんだがまるで嘘だったのかね……? なぁ、関係ない話だが、会いに行くヒューマンの親玉なんてのはおまえどう思う?」グロールの肩をがっと抱き込む。ガルーフはにやっと笑ってみせた。
「関係、ないですか……? ガルーフ様のそういう性質も非常に心配なんですが……。帰ってこない人って出世させる必要がないんですよ」
「しかしオークが勝てないのはヒューマンのずるい脳味噌のせいなんだろ。その首を切り離してやるいい機会だ。悲願なんだ。考えなしなのは分かってるぜ。しかし絶対に喧嘩しちまうのも分かってる」ガルーフは両の掌を握って、開いた。敵地への旅が決まってから、オークの身体の中に流れる血が逆に進むようだったのである。
「そこはさすがに考えて。これだけの奴等があなたの肩にかかってる」グロールは腕をひと振りしてダグデルの占拠民たちを示した。
「ああ、ガーグレン将軍のご指名のことは考えたぜ」ガルーフは唇をにやりと曲げてみた。グロールのこと、それから自らを指差して、「よりによって俺なんだぜ。ヒューマンが歓待の裏にダガーを隠し持っているとして、おまえみたいな平民出身を差し向けるだけでも良かったろう」
「大それないで……」グロールは血の気を失っている。「じゃあもう少しお話をしましょう。台所について」
「どうしてだよ」