「君が最初に言った通りだった。こいつはただの偽坊主だ。国分けの神話の以前を話す神官などいない」連 れに注意をうながすモンドール。 「わたくしがゾール様のしもべでないと。面白い。では貴方がたのご身分は? この世の中の起源を知りたくな いのですか、人智を超えた力を持つ学究の徒が」 「国分けの神話とて模糊なものだというのに、更に時代を遡ることになんの根拠がある。貴様は妄想を信仰と 称するような輩か」 「国々はその神話に準じて幾星霜動いてきたのではありませんか。いや近頃は誰もかもちとおかしな気を起こ していることは認めましょう。男のかた、貴方は歴史や現実から目を背けるのですか?」 「モンドール。やめましょうね」名を口にされて青年魔術士は灰色の眉を吊り上げた。 「じゃあお坊さん。あんたの根拠を聞かせて」ディオシェリルは煙管を片手に、部屋の椅子に自分の黒衣を腰 かけさせた。「話は聞いてあげるけどね。思い込みの殉教に付き合ったりはしないわ」「神の起源を舌の端に 乗せる者など衛兵に突き出せば済むのに」 二人の魔術士の言葉を聞いてバクーダは右手を自分の胸に当てた。「わたくしは全てを信じていますよ。こ の肉体が人を超えたのですから。神々が永遠を望んだ時代もあったのだと……」 「いいからどうしてそうなったのか話を進めて」女魔術士は煙管を口から離しバクーダへ突きつける。紫煙が部 屋に浮いた。 「啓示を受けたのです」赤い魔女はにやと笑った。神官の言葉のうやうやしい含みを撥ねつけるように。 「間違った歩みをこの都市で止めようとしない教団に思い悩む日々でした。それが唐突にわたくしの元へ降臨 あそばされました!」バクーダはその場で両腕を広げ、今も迎えるような姿勢を取った。「何が……」モンドー ルは自分の灰の髪を掻いてたわませた。 「わたくしはすぐに蔵書庫に駆け込んだものです。そして夜半に無理に船切符を取りました。ブルガンディ島へ 向かうために!」 「なんの本を持っていったのよ」ディオシェリルは土気色の顔を眺めた。(健常なら上気しているんでしょうね) 「本? 挿絵など暗記しています。実地にも訪れています。ただ正しい啓示であることを確かめたかった! 見るべきもののない海の上でもわたくしの高揚は尽きることがなかった! そして上陸するとすぐにポンペート 山にかじりつきました! 過酷な岩肌がわたくしを愉しませました。ハーピーを目覚めさせてしまって、わたくしの 立つ一面が巨鳥の影に黒く染められた時はさすがに身じろぎいたしましたが……。それからついにたどり着い たあの階段!」 「ああ、聖地へ向かっていったのね。若き神聖皇帝とゾールが雌雄を決したという地底に」 「言わずもがな。我らの大神が着座されていたとされるあの巨大な石造りを再び目にすることができてわたくし は地下で小躍りしたものです。しかし、それよりも大切だったのは傍らに煮えたぎる溶岩でした。おお、神代よ り止まぬポンペートの脈動……。あれが目前に迫りくるさまをわたくしはあらかじめ見ていたのです。いえ、見 せられていた……。そして次の瞬間、全てが消え失せたのです」 |
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