「早く話しなさいな。怯えながら私たちを使役するのはたいへんね」 「よせ、こんなところで。戸を開けるわけにいかないんだ」長い煙管を取り出したディオシェリルをモンドールはた しなめた。バクーダが負傷で充血した眼をさらに見張ったのは、女がその人差し指に小さな炎を乗せていたか らだった。直前に女は右手を卓の下にやった気がする――。怪僧は戸惑う。 「臭くてしょうがないのよ。高い葉っぱだもの、そっちの煙がこびりつくほうがまし。あんたも吸う?」女が僧の方 を見てくる。ディオシェリルは管の中身を吸って頬へ溜め込み、感慨深げに吐き出す。 「痛み入ります……。しかし貴女の手ひどい一撃の後では無理でしょう」煙草に火をつけた本物の火。驚き を覆い隠すような笑顔をバクーダは作る。 けたたましく甲高い声が宿の一室に鳴り響く。 「あはは! 喉から煙が出てきたら楽しいでしょうね!」顔を覆って笑う女。煙管を挟んだ指の向こうに紫煙が ゆらめく。「やめないか。危ないぞ」静かにモンドールが呟く。(やけどを被らないわけではないのか)バクーダは 気づく。そして過日に自分が目にした溶岩流を思い起こす。 「さて。互いに襟を開いたとわたくしは見ました。打ち明け話と参りましょう」 「そうかしら? あんたは全てを喋らなかったり、嘘を混ぜてくるでしょうよ」「ああ。口封じがどうのと疑心をあら わにしていた」二人の魔術士が僧を見つめた。 「良いですよ……。学士様というのは疑り深くなければね。そうです! ことを構えるまでもなく、お二方の身 につけた万能なる魔術でもって拙僧の心を洗いざらいすくってみたら話が早い!」 「……まあいいでしょう。ちんけなほど弱くって身と心に秘密をもって鎧う者が一人。まったくその逆の者が二 人。立場が違うほど上手く合わさるこてもあるわ。はめ込むみたいにね」 「おや。やらないのですか」「では僕に嘘を聞かせてもらおうか」モンドールがバクーダの言葉を遮る。 「貴様の使えるゾールは豊穣の神だ。享楽の神だ。ヒューマンのことを彼は自らのために育ち死ぬ者と考えて いて、信徒をブルガンディ島の地下へ呼び寄せそこで永遠に宴を開いているとされた。他の六柱の神々の住 まう天界には昇らなかった。そう伝承する書がある。相違ないか、神官」 「多数派の説ですな。ええ、だいたいは」 「当たっているのならあんたははずれね。ゾールの一の使徒のようにのたまっている人がなぜ神のおそばにいな いの。その身、ゾールの業であるか怪しいものよ」ディオシェリルは煙管をバクーダに突きつけた。「と言いたい のでしょう? 貴方」女は灰色の髪を持つ青年の視線を呼び込む。 「興味を惹かれながら突き放してみせる。頭のよろしい態度ですね。楽しい宴も下ごしらえをする者が必要で す」バクーダは僧衣の襟を正した。「知っておいでですか。大神ゾールを始めとした天つ七神は原初、我らと同 一だったのです」 バクーダは言葉を続ける。「死すべき者たちであったものが永遠を求めたのです。今の我らのようにね」 「だいそれたことを言うのね」目の前の赤い魔女の視線が重いものに変わったとバクーダにははっきり感じられ た。灰色髪の青年も口をつぐんで彼女を見やった。バクーダの首に雫がつたった。汗ではなく、ディオシェリルに 与えられた傷が開いたのだと僧は思った。 |
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