モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

5.三者



「ね、逃げていいよ。お逃げったら」ティアラは優しげな声をなんとか吐き出した。猫をなでるように、後ろの少女の気配を伺うと、「にゃ……」と自分の口から息がもれた。

(動きゃしない。腰が抜けてんのか……)二人の目前にそびえ立つ岩の人間がいて、悪い意思をもってこちらの出方を窺っているとなれば、小さい子供の気持ちはシャーズの太い商人にも読み取れた。巨大な敵が、動いたものから叩いてくる懸念はティアラにもあったのだ。そしてさっきまでは三人だったのに。

「あ……あたしに任せとけって言ったじゃないか」何べん考えても女の子の《パチンコ》は利用できるものではないという答えしか出ない。(かと言ってあたしはなんなんだ)体育の時間に習って以来、得意としてきた《ダガー》をいま投げつける相手はよりによって石のゴーレムだ。いまは1ペイカの価値もないものを両手に8本もはさんで異種族の子供相手に威張ってる……。

 しばらく。三者の対峙はシャーズには耐えがたい沈黙のもと行われて続いた。

 そしてティアラの気概が身体とともに押し潰される時は来た。ゴーレムがきしんだ轟音とともにこちらへ上体を傾ける。モンスターの咆哮とともに。

(なりの割に甲高い声を出すもんだ)ティアラの観察眼はこの期でも働いた。

「下がれ、下がれーっ!」ティアラの幻想は打ち破られ、彼女はゴーレムの裏側から発せられる人語を理解した。一方ゴーレム本体の、攻撃のような落下は止まらない。

 心の消沈によって動きをやめていたティアラの襟首に、小さなものが繋がった。ティアラはそちらの意思に乗っかろうと思った。シャーズ女の巨体は一息呼吸して、素早く後ろに転げた。

 ゴーレムもまた素早く体勢を戻したようだ。目標は背後の新たな人間。そこへ向かって岩の拳に威力を乗せて突く。「うわあっ!」目標点から轟音と情けない悲鳴が上がるが、命中はしていないとティアラは感じた。

「悪いね」ティアラは襟首のぬくもりに手をやった。子供の小さな手の高い体温。「嬢ちゃんに助けられるとは」ティアラはばねみたいに素早く立ち上がって、素早く少女の手に口づけして、大声を出す。

「いいところで出てこようとしたくせに、全然効いてにゃいじゃないか!!」

「大声を出すな!! 危ねえからわざわざ振り向かせるんじゃねえ!」ヒューマンのエドマンドは同じように大声を出したのだ。ゴーレムの首はティアラらに向く。

「分かったよ!!」ティアラは恐れずに再び大声を出してみる。

「やりたきゃ一人でやるんだな!!」ゴーレムが今度はエドマンドの方を向く。

(双方から攪乱して挟み撃ち、子供から引き離せってか)エドマンドの得物を見ればティアラの心にわずかな希望は芽生える。

「天秤棒を武器にできるなんて、やるじゃあないか!」

「おう! まだ荷をぶら下げてなくて助かったぜ! ごほ!! ごほっ!」

 ヒューマンが調子に乗りつつ背中だか腹の傷に耐えかねる姿にティアラは再び少しの不安を覚えた。(あの背負い袋が緩衝になったんだ)シャーズの耳は荷物だけが転げ落ちる音を聞かされたわけだ。