(くそ! 一瞬でだめになっちまいやがって! くそ!)荒地にはじけて散った荷に対してティアラは悪態をついた。さきほどまでは競合相手のものだった。ヒューマンがせっせと担いできた荷物。ただ一突きの攻撃で数々の品がひしゃげて用をなさなくなったのはシャーズの眼を持たなくても分かるだろう。(あたしが一人で相手をしなきゃなんないとは!)シャーズの女商人は尾のない子をかばいに向かった。 「やい!! この子とあたしに近づくんじゃあないよ。こいつが次々に全部突き刺さるからね!」ティアラは両の手を掲げた。贅沢で若くして太くなった十の指のあいだに、器用に《ダガー》をずらりとしっかり保持している。手と爪と身体の大きな猫の威嚇する姿となった。 モンスターは黙って目の前でその巨体を組み上げていく。それに向かって嘘を吐くと心までからになっていく、ティアラはそんな風に感じた。この場にまだ立っている人間ふたりに比べたら遥かにでかいし、岩そのもので違和感たっぷりの肌が気分を悪くさせてくる。(《ダガー》が突き通るわけがないんだ) ティアラの耳にヒューマンの荒い息づかいが入ってくるが、彼女の期待した人物と方向ではない。モンスターに刺激を与えないことを猫神のセテトに祈りつつ、努力してシャーズがちらと目を後ろにやると、女の子の構える《パチンコ》が見えた。(いっぱしの二人パーティかい!) 「こんなのはあたしがやっつけておくからさ、嬢ちゃんは適当にどっか行っちまいな。今までうるさくしてごめんねぇ。ほら、さっさと!」少女は短い悲鳴をあげたが、素早く逃げ出した。ティアラは少し拍子抜け。 再び悲鳴。短くも大きな悲鳴。ティアラにも激しい震動が与えられた。目の前のモンスターは一回足を踏み鳴らした。あたり一面に石片が降りそそぎ、まるでべングの山々の鳴動だった。 (あいつが適当に暴れてりゃあたしたちだけおだぶつになるわけだ! 目の前の《ストーンゴーレム》はこの山が家族みたいなもんだよにゃあ)こんな未開の地方に買い出しに来るのではなかった、と今更思いを馳せるのだった。海上基地で物がすぐ足りなくなるからって。 そして激しい金属音がティアラの心をさらに打ちのめした。がらんがらんと音は続く。なんとかと言ったヒューマンの商人は落下したらしい。(悲鳴もあがらない)心のどこかにしまっていた期待は打ち砕かれた。 |
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