「馬鹿者。行進を止めるな。静かにしろ」ガーグレンはグルルフを叱咤する。オークの隊列はがたついて、兵士の視点は一様に崖へ集まる。「何者なのです」そしてヒューマンの騎士の側を向く。 「まだケフルへの曲がり角にさえさしかかっていません」エ・ガルカは即答した。ここまでオークを連れてきて、つまらぬ誤解を受けるわけにはいかないのだろう。 「山岳モンスターだっているんだよ。ガルーフ君どうかね」ファンタール卿はゆっくりと言葉を並べてきた。白い髭の垂れる顎をあげ、山の頂を見る仕草をした。高い山脈はいつも軍の列をじっと見下ろしている。 「俺だって狩人だ。服を着ていたぞ」 「低級モンスターしか狩れないから貧しいんだ、猟師。私はグールの群れと対決したことがある」グルルフは言う。 「馬鹿、アンデッドが派手な服を着るもんか。俺だってヴァンパイアを倒したことはある。お前は対決してからどうなったのか言ってみろ。俺は心の臓が縮んではじけそうになったぞ。朝までねばったんだ。疲れで何度も舟を漕いじまった。お前の勝負のゆくえはどうだったというんだ」 グルルフは馬で向かってきた。「馬鹿者! 喧嘩をするなとさっき高説を垂れたのはどいつだ!」将軍ガーグレンの怒声が響きわたって、列はこれまで以上に静かになった。 「一体どんな服だったと言うのじゃ」代わりにゲーリングがガルーフの側へ寄る。声を低めた。「お主の言うことはおかしい。昼間だからアンデッドは関係ないとして、高位モンスターが軍隊をうかと覗きこむじゃろうか。もう姿を見せぬ小さき者だとしたら。服の色は?」 「わ、分からねえよ。何色と言っていいのか、俺の頭には言葉がない。そんな色さ。とにかく派手な奴だった。本当だぞ」 「ほんにお主は困るほど田舎者じゃな!」 それから長い時間が過ぎたのち、ケフルのファンタール卿は副官のエ・ガルカと馬上で短く語らった。 気勢を削がれたオークたちがヒューマン国のケフルとエルフ国のエサランバル、それぞれの境に至っても崖上に首をすくめ、おとなしくしていたのは拾い物であったと。 |
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