モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

4.グルルフの災難



 退屈する暇はない。

 そう、今、背後に上がった大あくび、そいつが、心の臓を締め上げてくる。

 なんでガーグレン将軍はあいつの首と胴を早急に切り離してくださらないのだろう? オークの恥は今すぐ将軍やヒューマンの騎士の怒りを買え!

 馬も操ることのできない平民が、よちよち歩きの小姓になって、たった独りでヒューマンの陣地へ使い走りに出かけていって、馬に乗って帰ってきただけではないか。

 文字を知らず、思いついた端から端へと声に出して言うしかことしかできない命令違反の無学者め。

「おい! 命令にそむくか。使い走りもできないひよっこか、貴様」

「はっ、閣下!」グルルフはガーグレンの声に向かって、反射的にとにかく返事をした。ぐんと伸ばした背筋だが、凍っている。「わ……わたくしですか、閣下」

「そうか。ヒューマンのお歴々の前でオークに恥をかかせたいわけか」グルルフの頭蓋の肌は火の神バランの手に掴まれたみたいにこわばった。次はガーグレンの手が腰の刀に伸びる番だ。グルルフの首と胴を切り離すために。

「やめやがれ」背後から割り込む叫び。

「馬を貸せと言ったんだ。俺は狩人だ。海というやつ、お前なんかよりも先に見つけてやるぞ。俺だって馬に乗れるようになったんだ」ガルーフのよく通る声がケフル地方の空へこだまする。

「う、海だって」

「そうだよ! いつも喧嘩から始めやがって。だからヒューマンに食べ物でつられて、オークは使いっ走りにされるんだ!」ガルーフはグルルフに向かって吠えたててくる。「よく言うわ」隣のゲーリングは自らの獣の耳を塞いだ。

 ゲーリングは腿を使って馬を器用に前に進めた。「ガキかてめえらは!!」若者の怒声は元気に響き渡る。

「で、では。グルルフ、任務つかまつります」オークの騎士は荷鞍に手を突っ込み、遠眼鏡を探るさまを見せながら馬を駆けさせた。彼はガーグレン将軍と二人のヒューマンの視線から消えた。


「行っちまいやがった。海、一番乗りしたかったんだがな」

「お主、口でものを考えておるじゃろう。我々は海へ向かっとるわけではない。このまま道なりにゆけば少しだけ海が見えると、エ・ガルカ殿はおっしゃった」

「海を知らんから、わからない。わからないから、見に行くんだよ」ガルーフはゲーリングに向かって肩をすくめた。ブルグナの旗も揺れる。

 馬上のゲーリングも肩をすくめてみせた。「だから思いつくそばから喋るものではない。まあお主が道化を務めてくれるのは良きことやもしれぬ。オークの台所の話は双方にとってよい釘刺しになる……」

「ヒューマンと友にはなりたくないからな。俺もずいぶんほだされてしまったよ」

「度を越せばお主の首を切ってまさに手打ち。ほんに勇士よ」老僧は若き旗手の顔をくしゃっとしかめさせた。

「仲良くしても、争っても、いずれ行き当たるわのう」ケフルへの海沿いの道は晴れやかな熱を湛えている。