何日も続く青空のもとにオークたちはいた。そこへケフルの山並みが描き込まれてゆく。偉容の麓を兵士たちは歩く。岩の塊のそのまた塊。ケフルの山脈は天に連なり、粗雑な隊列は大地を這う。 神聖皇帝が七つの秘宝をめぐった時代もオークの軍隊はこの街道を歩いて攻め入ったという。(此れまことに奇岩奇峰の図なり) 「よう、出来上がったか。見せろ、見せてくれよ」 ガルーフは馬上の山並みを自分の手にひったくった。 彼の前に並ぶ四人の騎士の背中と、その馬どもの尻を眺めて付き従う仕事に、オーク軍の新米旗手が倦まぬはずがなかった。 平民の旗持ちは一声吠えて、「そっくりだなあ。黒い線だけなのに」走り書きの山脈図も退屈な行進のなかでは大した娯楽である。片手間に持ち運ぶブルグナの大旗が釣り合いを失った。 「五王家お授けの大事な旗を驚かすでない。絵の腕があれば、おぬしのような粗忽で文字も知らぬ者にもわかり易かろうからな」 「そういや、ガキの頃の遠足で行かされた神殿に綺麗な絵がたくさん飾ってあったけな。こんなものよりずっとな」ガルーフはケフルの情景を描いた紙を裏拳で叩いた。何かのモンスターの皮で作られて手応えがある。 神官ゲーリングが顔をしかめたのでガルーフは笑いをこぼす。オークの軍属の老神官は持ち馬に身を伏せた。粗忽者の若きオークをほうり出して新たな作に熱中しはじめたゲーリングを見て、ガルーフは肩をすくめた。抱えた旗が揺れた。 「なあ、これは字だろ。なにを書いたんだ」ガルーフは図のすみを指した。 「うむ? それは……最近ずっとそうだから、書いたわけじゃ」ゲーリングが筆を止めた。 「晴れか。晴れと書いてあるのか?」ガルーフはゲーリングの意図を当てた。「同じことをなんべんも書いてたのか?」彼は過去の絵の記憶を掘り起こしたくなった。文字が分かればたやすかっただろう。 疲労のもと粛々となされていた行進の中の騒がしいやり取り、これに耳をそばだてる者は当然いる。 オークに混じってヒューマンの騎士が二人いる。ケフルの大将ファンタール卿とその副官エ・ガルカが馬を進めつつ言葉をひそひそと交わしている。 オークの大将ガーグレンはヒューマンの手前、奔放な旗手をたっぷりとたしなめてやろうと考えて、振り向いて、斜めに立つブルグナの旗を目にしたので怒りが爆発した。 それを一番驚いたのはすぐ隣に轡を並べていた若きオークの騎士のグルルフで、愛馬に主人の動揺をしっかりと伝えて跳ね上がらせてしまった。 |
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