「寝たらだめ!って考えるほどさ、よく眠れるって思わない?」圧力にひたすら身を任せる。双肩のその重みに吸い込まれてゆきそうな気分。もっと快楽を求めたいと思った。 「ねえ、お茶ちょうだい」背中の友人を見上げようとしたら、前から音がふたつ鳴った。会議室の木の机を強く打つ音はそのまま自分の長い耳を叩いてきて、ロリエーンは目を覚ました。 「ありがとお……」湯のみは一つちゃんと置かれており、ロリエーンは憮然とした。 「あつっ! まだ汗かいてんのに! あつ!」舌が痛みにしびれた。エサランバルの湯のみは良い土でできている。 「目が覚めてよかったじゃないの」サーラは盆を下ろした。「早く書庫へ向かいましょうね。あんたの言うヒューマンとオークの諸将の名、本当に正しいのかしら」 「このロリちゃんを疑うとは情けない」ロリエーンは両手でさっと顔の脇をなでた。エルフの耳が左右にぴんと跳ねた。 「どうかしら。石造りの狭い街に何度も住んでいるとね、目だけでなく耳まで悪くなるのよ」 ロリエーンは手を振って、「やーだ、そんな迷信を」「面子はレイランド、エ・ガルカ、ファンタール」「グロール、ゲーリング、ジング、グルルフ、ガーグレン」「大声でしゃべってたお馬鹿の名前は聞こえなかった。どう見ても軍人ちゃんじゃないね。はー」ロリエーンはカール茶の熱さを楽しみ始めた。 「ヒューマンとオークのそれぞれの指揮官と副将が交代で相手の軍へ出向いてたのよ。それでね、迎えた側の軍が先頭になるのを繰り返して南へ進んでいたわけ。ヒューマンとオークのお友だちごっこだね」「いさかいは意外にも少なくてかえって静かにさせる効能があったくらい。ロリちゃんが休憩を入れ終わったくらいに、やつらも無事やってきてエルフの射程に入ってくれるでしょうよ」「以上、報告おしまい! 寝てくる!」 「ロリちゃん、よく眠れるねぇ」シグルドはようやく調練を終えてきた。 「眠らなきゃ、じゃなくて眠っちゃだめって考えたら楽しいのよ。なでなで」「いたたた」ロリエーンはシグルドのふわりとした髪を自分の手にたっぶりからめた。 「突撃兵!」参謀サーラはロリエーンをたしなめた。突撃隊長のシグルドは愛想で笑った。 「あんた、自分に自信を持ちすぎるのよ。その背丈のための小馬がフェリオンの速さにかなうと思っていた?」 「そろそろ号令の時間かな」指揮官のエルサイスは席を立つ。北に火矢が上がり始めている。昼間のヒューマンやオークの視力では捉えづらい、エルフのための通信手段である。 「そのフェリちゃんどっか行っちゃったじゃない。ロリちゃんがやらなきゃあ……。密命? 密命なの?」 「向こうさんが大軍だからもう斥候は無用ってことじゃないかしら。こちらの方が目がいいのだし……。二回も偵察して刺激にならなくてよかったわ」ロリエーンはぶすったれた顔でナーダを見る。 |
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