オークの旗持ちは平たい鼻から熱い息を、口からあたり構わぬ大声を出している。 「思い出したぜ、遠足のこと。神殿の壁には不死の七神と死すべき九種族の絵があったんだ。それから、そいつら全部の名前を覚えさせられたんだ」ガルーフは猛り、自分で自分にうなずく。 「ほう、ここでおさらいしてみい」 「苦労して覚えさせられたのを覚えているだけだぜ」オークの旗手は神官ゲーリングに向かって牙を剥いた。「名前だけ覚えたところで面白くない。自分で話をこさえてみるのは好きだったけどな」 「でもついこないだイリスの姿は見たんだぜ」とガルーフはゲーリングの反応を気に留めず、ひとり熱を帯びて話を続ける。 行進の先頭へ言葉を投げた。「イリスはコボルトとノームの神様なんだろう。あんたらに用はないはずだ。美しいから像をこさえたのかい。わざわざ地下にさ」ガルーフの脳裏には砦ダグデルの底の暗闇が広がっている。 前で言葉を受け取った者たちは顔を見交わした。馬を操る二人のヒューマンの騎士である。なにやらひそひそと言葉を交わした。 「勉強は苦手でも、色々なことを知っているようだ。しかし、他種族に対する礼儀も知っておいたほうが良い」ヒューマンの副官は振り向き言った。 「こういう乱世では様々な可能性をもたらすような若者のほうが役に立つのではないかな。君の二人の息子もそうであったら良いと思うよ」ファンタール卿は隣の副官エ・ガルカを恐縮させた。ガルーフにはヒューマンの老将の顔は見えない。白く長いひげを撫ぜる後ろ姿だけ見えた。 「無礼な野良犬への過大なる修辞、誠にありがたく存じます。ヒューマンの大将のお言葉なければ、今すぐ処断つかまつってご覧にいれましたのに」オークのガーグレン将軍は言葉を並べた。 「誰も俺の質問には答えねえんだな」「これっ」ガルーフはゲーリングにたしなめられる。 「しかし、将軍をおとなしくさせるものがあって、それが敵だったはずのヒューマンとはな。笑いが止まらねえよ」ガルーフは吐き捨てるように言う。 「不吉な光景やもしれんな……。生きた心地がせん」「いてっ」僧ゲーリングは馬上からガルーフに蹴りを飛ばしてから、口中にバランへの祈りを重ね重ねつぶやいた。 「しかし味方に向かって腹が立つこともあるもんだな。その気持ちはほんとさ。ばちが当たるとしても」ガルーフはオークの旗ごと力いっぱい腕を組んだ。 |
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