「ええい」ガーグレン将軍は利き腕を一閃した。 「お見事」ファンタール卿はオークの刀が宙を斬ったのを讃えた。顔の白髭が笑った形に歪んだ。 「痛み入ります」ガーグレンのサーベルは音を立てて鞘に収まる。 (行ったと思ったうちに帰ってくる。それくらいの印象を与えたら)馬も自身にも大汗をかかせてグルルフは戻ってきた。 次に将軍を見つけたところでオークの毛は逆立ち、汗は揮発するかに思えた。 しかし、ガーグレン将軍の怒りの眼はオークの軍隊に投げかけられていたらしい。グルルフと怒濤の勢いですれ違ってゆく兵士たち。 「どうされたので」驚きがグルルフの口からついて出たが、声が枯れていた。思わず咳まで飛び出して、オークの騎士は疲れに身をこごめた。 「俺が海を見つけたら、みんなこの有り様さ」彼の小さな声を掴まえてやって来たのはガルーフだった。その間にも兵隊は前へ駆け去る。路上のガーグレンは忌々しげに素早く隅へと馬を走らせた。数名の兵士がおっかなびっくり彼を避けて前へ走り去る。 「確かに湖よりでかい。一体誰がどうやって作ったんだろうな」ガルーフはケフルの日差しに手をかざしつつ目を細めた。グルルフは反射的に振り返らせられたが、重なる岩山しか見えないのは行って帰ってきた本人が分かっていることだ。(猟師め、そんなに目が良いのか) モンスター討伐の任に際してそういう生業の者を道案内に使ったことはあった。(いつも手柄を横から掠め取って、何者のつもりだ。うわっ)グルルフには憤る暇もなかった。逸る兵隊の波に飲まれそうになって、彼は歩兵を馬蹄にかけないように地面のほうを向いた。 ブルグナの軍隊はゆく。 (七秘宝時代以来のオークの壮挙、誠にお喜び申し上げます。いまや軍団はケフル国の脇腹に密着し、将兵はみなブルガンディ地中海の青みを肉眼にしかと入らせております。感涙にむせぶ者、ヴォラーの雄叫びをあげる者。叫びはいつか歌に変じてゆき、ヒューマンの国土を大いに圧倒しております。これ全てグラード陛下のご威徳の賜物、誠にお喜び申し上げます) |
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