「なぁ」「にゃんだよ」シャットはノーラの箸を止めさせた。 「姉ちゃんは呼ばれもしないのにいくさに向かってるわけだ」 「おい、命令違反なんて言うにゃ! 助太刀だぞ」少女は自分の夕餉と連れの少年の顔を見比べている。 「なんてそうまでするんだよ? 人ひとりかどわかしみたいな真似まで働いてさ。血の気があり余ってる以外の 理由を教えてくれねえか」 「まったく、一言二言三言も多いよお前! そうだな、そのお前のために遠征してやってんのさ」 「はあっあ?」 「変な顔すんな! お前はゴブリンが嫌いだろう」 「なんだよ、街を荒らす連中を好きになれる奴がいるかってんだ。……おっかねえ顔すんなよ。金持ちのお嬢 さんは召使いの顔しか見たことがないんだろ」 「あたいはそうゴブリンを嫌いにさせた奴が嫌いってわけさ」 「だ、誰だよそれぁ。舟が向かう先にいるってのかい」 「ブルガンディでゴブリンたちを暴れさせた種族解放運動な、おおごとだったからお前もがっこで教わったろう」シ ャットはうなずく。 「表向きは草莽の起こりだが、被害をこうむったあたいらシャーズを悪もんにして、仲裁しようとしたエルフにくっ てかかってるのはどいつらだって話だよ。とどめに、自分らが奴隷にしてきたオークを運動の美名とダグデル砦の 餌でもって抱き込んじまった」 「ヒューマン……」シャットの顔はこわばる。 「ああ。これはあたいのがっこの受け売りだが、あたいはわかると思ってる。ヒューマンは得しかしてないんだ」ノ ーラは金の髪をかいた。 「ともかくさ、ブルガンディをぶち壊すことが正義なわきゃない。焚き付けられてのぼせ上がった馬鹿どもが… …。……ああ、馬鹿たちだよ!! あたいだってわかってんだ! どこにだって馬鹿といい奴がいるもんさ!」 「姉ちゃんとオレみたいなもんか」 「ん? あぁ、ははは!」シャットはノーラに頭を掴まれた。「たまには面白いことを言うじゃんか! しかも、わ かってやがる!」 「いってぇ。変な受け止め方しやがって」 「んー? とにかく、お前みたいな子からかつあげして口に糊しようとするゴブリンも哀れなもんなんだよ。シャー ズがゴブリンを使役するのは良くない……としても、良くないからって家に火をつけて歯向かうほうが正しいの か? そうしたらゴブリンも家と仕事をなくしたよ。ブルガンディは誰も得しなかった。ポンペート山から隙を狙っ てハーピーが出たそうじゃないか」 「あ! オレも聞いたぜ、おっかねえなぁ。でも一人のヒューマンがやっつけたってよ。ほんとかな」 「やっぱりヒューマンなのか……。まぁ、あたいの言った通りさ。どこにでも大した奴はいるってことだ。しかし、逆 に言ったらそれはそれ。あたいはこんなわけで南へ進軍してるってわけだよ」 「よ、よくわかった。わかったよ。じゃあさ、オレ」 「にゃんだよ、震えちゃって」ノーラは思わずとっぷりと暮れた夜の海原を見渡す。 「こ、怖いんじゃないよ。決めたらなんだか昂ぶっちゃってさ」 「あぁ、もしかして。だから、あたいはついてこいだの助太刀しろなんて一言も言ってないってば!」 「こんなところまで引っ張り回したくせによ! 海の上で他にすることもねぇから姉ちゃんを手伝ってやろうって決 めたんだよ」 「暇だからいくさしてやろうなんて、言うじゃんか! でもお前は市民だよ。あたいは軍人だ。お前のためにやっ てやるんだってさ、さっき言ったろう? それより取り引きがしたいな!」 「はあっ?」 |
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