「だ、騙しやがったな、てめえ!!」 「言うにこと欠いててめぇ言いやがったにゃ! ……、ま……ま……まぁいい。あたいはやめとけって言ったろ が。なにを騙したってんだよっ」 「じゃ……じゃ……じゃあ舟を止めろ。止めてくれよ!」小舟は波けたて二人の年若いシャーズを戦場へ連 れてゆく。 「やだ!」ノーラは言う。「あたいに取っちゃ千載一遇なんだよ、お客さん。第一まだまだ船をかっ飛ばさなきゃ なんない。つまり食糧が足んなくなるかもしんないってことさ! あと船を止めたらお前、得意の泳ぎでどんだ け行くつもりなんだ」聞く少年はただ身体をわなわな震わせた。 「ちきしょう……。ならどうして今まで黙ってやがったんだよ!」 「あたいがなに言ったってお前は乗っかってきたろうよ」ノーラは懐から木の実を取り出す。「このエリアルの実を あたいが持ち逃げしたって思ってやがんだから。それこそ『騙すつもりだろ!」ってな。あたいはこいつをお前に引 き取らせて帰したかったが、おばちゃんのところから逃げ出したときた。したら乗せてやるっきゃないだろーが」 「そ、そんなこたぁ」 「まあ、どうあがいてもこう、あたいと地中海の端っこまで来るはめになったってことさ。これが運命とか天運って やつだ! でもシャット、お前の選んだ道なんだから良しとしな」(不吉な予言をいうヒューマンのじいちゃんは 確かこんなこと喋ってたよな)少女は遥か東に置いてきたブルガンディの出来事を思い出す。 「元気出しなー! お前の作ってくれた飯を食ってやっから」夕闇に包まれながらノーラは言う。 「食わせたくねえ……」 「うるせぇ! あたいは食うぞ!」ノーラは釜を帆柱の金具にかける。船底で火は炊けないので、吊るした二 重釜に火種を入れて温めたり焼いたりするのだ。 「へへへ、炊き込みご飯だ」空きのあまりない釜に米飯と干物を一緒に放り込んだノーラ。次にシャットの引き 揚げた魚籠に飛びついた。いそいそと中を覗く。 「ありゃあ、にゃんだこりゃ?」シャットの刺身が入れられているであろう麻袋はわかったが、真ん中に邪魔なほ ど大きくて氷たちを圧迫する四角い木編みの箱があった。 「思い出した、あたいが入れたんだ」「当たり前だろ」 「家のみんなが作ってくれたステーキ弁当だ! やったね!」「ゴブリンの料理かよ」「みんなの料理が食えね えってのか。だいたい、ちらしを何日か前に食ったくせに」 「うっへ、だめになってんじゃないの」「ずっと氷で冷やしてたんだ、だいじょぶさ。あたいのやることなすことを考え てみんなが作ってくれたもんだ」「ゴブリンは虫を喜んで食うんだろうけどな」 「それ以上言ってみな。船から下ろしてやるよ。お前の望み通りだ。……そろそろ炊けたかにゃ」 「臭いぜ。やりすぎだ」シャットは釜のほうを向いて顔をしかめた。吊るされた釜は煙を逃がすたくさんの穴から 白いものを吐き、暮れた空に自らの仕事ぶりを示している。 「ばっきゃろー、食べるもんが少ないんだ、味が濃いほうがいいんだよ」ノーラは煙の熱に気をつけて釜を下ろし た。 「ごほん! くせえ!」 「言わんこっちゃねえ。オレの作った料理だ、ちゃんと食えよ」 「あ、あたいは料理を習う暇がないけどさ、みんながいいもん作ってくれるからね」 |
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