モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

6.往くか戻るか



「こいつをお前にやるよ」ノーラは座り込んで傍らをぼんぼんと叩いた。夜の海に木の音が鳴り響く。「わっ」少
女船長は僚艦に見つかることを恐れているのだ。

「こ、これって」「この船に決まってんだろ。ただし、ゲームに勝てたらだ」

「ほ、ほんとにくれんのかよ」シャットは身を乗り出した。

「ごほごほ! わけもわからないのに飛びつくか? 褒めてやるべきか」少女は少年の返事を待たず自分の魚
飯をかき込んでいた。

「乗り回して遊ぶのは普通として、即売っぱらっちゃてもいいさ。アルシャの高値はつくだろ。貸し出して儲けるっ
てのもいいにゃあ。ただし、ブルガンディにたどり着かなきゃだめ。どうせ、帰れなきゃなんにも出来にゃいけど
な、はははは」夜の帳の中、大口開けて白い牙並べ笑っているのがシャーズの少年には見て取れた。

「オ、オレを帰そうとしてくれるのはわかったけどよ、漕げねえぞ! オレは!」

「しーっ! しっ、しっ、しっ、しーっ!」ノーラはシャットに向かって四つん這いになり、自分の口の前に人差し指
を立てわめいた。

「お前だってちょっとは漕いでただろうよ。もう免許皆伝みたいなもんだ、うん。してなけりゃ、帰れないんだ、とに
かく頑張ればいい」

「相変わらずめっちゃくちゃ言いやがる」「あいてて」シャットは顔つき合わせてくるノーラを手でどかした。

「ど、どっちに行きゃいいのかわかんねえよ」「なんだよ、おうちまでまっすぐ行くだけだぞ。ここまで来る途中なん
も見えなかったろう。楽なもんだ!」

「なんにも無いからわからねえんだろ! 水平線しか見るもんがなくなったらオレ、おかしくなっちまう」

「戦地に往くよか楽だろ、うらやましいねえ。方位をあたいが測ってやるよ。それを守ってずっと行きゃいいんだ。
待ってろ、今やってやる……」ノーラは舟の槽に向かった。

「ま、真っ暗じゃねえか」「にゃー、もう素人め! お空はきれいな目印だらけだぞ」

「うわぁ、綺麗だな」言われて見上げたシャットから思わず感想がこぼれた。

「そうか、ブルガンディだとポンペートのもくもくでよく見えないんだにゃ」

 二人はしばし辺境の星空を楽しむのだったが、本当に短い間であった。

「つめてっ」二つのシャーズの顔へ雨粒が降りてきた。

「うわあ、きやがった」ノーラは取り出した六分儀をなるべく素早く丁寧に船底に置き、代わりに大きく長い革
包みを解く。シャットは、出港前に担がされたものだと気づいた。

「お前、広げて後ろに張れ。いや、無理か、後ろにゃあたいが張ってやるからお前は帆柱の代わりになれ」

「どういうこったい」雨は無情に二人の顔を流れ落ち服を濡らしてゆく。

「こっちが終わったらあたいが帆柱に結んでやるってこと! それまで立ってろってんだ! うひょおおおおお!」
ノーラは雨に打たれて怒っているのか喜んでいるのか、ともかく叫んでいるとシャットは思った。

「よしよし、よこせ!」雨の重みですっかり前髪の垂れ下がったシャーズがシャットのもとへやってきた。少年の
託した大きな雨覆いの片端を、ノーラは帆柱に固く結んだ。

「この海域を離脱する!」帆が張られて舟が風雨の中を滑り出した。

「見ろ見ろ、帆と覆いの合わせ技で速いぞ! 我がシャーズ海軍の技術だよ! 買ってよかったあ!」雨覆
いの下でノーラははしゃぐ。

「と、遠ざかってるじゃないか」

「ちょっと寒いけど、覆いの中を風が行くようになったから……。にゃんだよ、嵐から逃げなきゃあしょうがないだ
ろ。さっきまでお姉ちゃんぼくも戦うよって息巻いてたくせに、すっかり帰る気になりやがって」

「な、なんだよ、そっちこそ、いてほしいのかよ」

「ばっきゃろう、んなわけあるかい。こっちゃ来い」ノーラとシャットは風雨の中肩寄せ合って座り暖を求めた。