ピルリム卿はいまだ歳若く、キルギルの騎士支団長の座をいただいてからそう日月は経っていない。貴族の 豊かな食生活を楽しんで血色非常に明るいこの少年は、ケフルとブルグナの間に火花を認めると今度は素 直に不眠をかこった。 「拍子抜けしても良いでしょうか?」隣に許可を得たようだったが、既に今までのつかえは胸から転がり落ちて いる。馬上において斥候の報告を耳にしただけで心が空気のように軽くなった。 「よろしいのでは? 探索は成功、ケフルを援けるのもまたの機会となったわけです」隣に控える騎士はキルギ ルのランスロット卿。 「すんなり行くと不安になります」ランスロットも若いといえる年齢だったが、鼻の下に綺麗に揃えた金のひげが 大器を表すように少年には見える。 「ことさらに疑うことはありますまい。それこそ山の民のようにしていればよいのです」「クリールの人たち、兵隊さ んがなにを考えてるのかおらたちにも教えとくれ、ね……」「間諜の才能もおありですな」 「馬鹿馬鹿しいですよ」キルギルの素直な気持ちを喋ることでケフルの機密を手に入れたのである。ピルリム は早く国へ帰りたくなった。 「まだ全員が帰っておりませんぞ」簡単ではあっても、ケフルの地元民を装うにはキルギル軍の影をちらつかせ るわけにはいかない。人海による伝令方式をピルリムは用いた。任務を拝してキルギルのために最重要視し たのは伝達速度である。「斥候たちをねぎらうべきです、卿」 「うむ。後に恩賞を授ける。彼らは追いついたのち、好きなように要望を述べるがよい、ということにしておくの はどうかな。今は母国に安全に迅速に情報を持ち帰るのが大事と思う」 「ピルリム卿、手柄は既に貴方のたなごころにあります。御大将の不安よりも置いてゆかれる者の恐れを重ん じられては」 「オークはともかく、ケフルはキルギルのしのぎを削る好敵手だ。偽の情報を掴ませているのかも。早く大叔父 に判断してもらいたい」 「ああ、はい」言葉を投げれば投げるほど少年騎士は浮き足立つ状態にあるらしい。容易に止められはすま い。 「ランスロット叔父さんに全部任せればよかったのに、大叔父さんったら。僕が権限を使いますからね。出立の 準備だ! 進めやキルギル、偉大なアシャディの子ら!」国境のキルギル軍。兵士たちは一斉に動き始め た。 (分からないなりに一生懸命なのであろうが……)ランスロットは普段から表情の変化が少ない。 |
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