「敵の血も流さず、自らの血もこぼさぬ者が友の肩を借りる資格があるか。両の足を使え、愚か者のピルリム よ」 壮年のキルギルの指導者は雷のような声を放った。早世したベイオール王の実弟マクネイル。先のガイデン ハイム城の王位継承者モルダット王子の伯父にあたる。 かつての神聖皇帝のお膝元として造られたティンジェル城。防御を旨として絶えず積み重ねられていった城 壁は厳しいし、執務室も狭苦しく見えた。そこに響き渡る声はやはり恐ろしくて、ピルリム卿は肩をすくめるも、 年頃の意地はあった。 「確かにただ息が切れただけです。わたくしはランスロット卿が肩を貸すことはないと言ったのです」言いつつすぐ に隣りの騎士から身を離して独り立ってみせた。乱れる息を飲み込む。 「ランスロット、そちをピルリムに付けたは未熟者を担がせるためではないぞ。互いに認め合い、学び合い、監 視し合わせるためだ。目の前の若き騎士たちを神聖皇帝に忠誠を誓うこの大公が認めたからだ。オーク侵攻 の危急の時だからといって若人を控えに置く真似はせぬ」 ランスロット卿は発言せずに頓首して冷たい床にひざまづく。 「ピルリム。こたびピルリム卿はランスロット卿の上官であったのだぞ」 「初めから断固拒否せよと?」 「簡単に分かることはわしの口からは言わぬ。見苦しい情景も指摘せぬ」 失礼を、とピルリムは一刻も早く鎧を紐解こうとした。汗だくの身体をよじった。太めの顔がかえって上気し た。 マクネイル大公は無言でその姿を指差した。みじろぎせず侍立していた親衛隊が手伝いにかかる。ランスロ ットの手もかかり、ピルリムはようやく平服の軽さを実感した。 マクネイルは二人を着席させると自らカール茶を注いだ。氷がそれぞれひとかけら浮かべてあってピルリムは 大いに恐縮した。 |
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